HOME > 知る > 伝統食品教室 > ごまとうふ:先人の知恵「ごまとうふ」

紀文アカデミー

  • おでん教室

  • 練りもの教室

  • 鍋教室

  • 伝統食品教室

  • 正月教室

  • 紀文ペディア

伝統食品教室

先人の知恵「ごまとうふ」

  • 柳原 尚之先生(江戸懐石近茶流嗣家) 
    profile
  • 野﨑 洋光先生(和食料理人) 
    profile
柳原 尚之(やなぎはら・なおゆき)さん 柳原 尚之(やなぎはら・なおゆき)さん
江戸懐石近茶流嗣家。江戸時代から続く懐石料理の流派を受け継ぎ、宗家である柳原一成と共に赤坂の料理教室にて日本料理の研究、指導にあたる。料理番組出演のほか、大河ドラマなどの料理監修も務める。文化庁文化交流使(平成28年)。日本食普及の親善大使(平成30年)。柳原料理教室 www.yanagihara.co.jp
野﨑 洋光(のざき・ひろみつ)さん 野﨑 洋光(のざき・ひろみつ)さん
1953年福島県生まれ。武蔵野栄養専門学校卒業。1980年「とく山」の料理長を経て、1989年「分とく山」を開店し、2023年12月まで総料理長を務める。和食の技と素材の味を活かした家庭料理のレシピで定評がある。 著書に、『なぜ? からはじめる かんたん和食』など多数。

「ごまとうふ」はもともと精進料理。昔の人は手間ひまかけて作っていたそうです。柳原さんには文献を基にごまとうふの歴史を始め、玉子とうふや枝豆とうふのお話も、「ごまとうふ」は完成度が高く趣のある食品と語る野﨑さんには手軽な料理法を聞きました。

つるん、ぷるん、とろんを食卓に

日本人は「ごまとうふ」をはじめ、「玉子とうふ」や「枝豆とうふ」など、“豆腐もどき”料理が大好きです。これらは日本の食卓に欠かせないもので、私も夏が近づくと無性に食べたくなります。

紀文の風味とうふ

この料理の魅力といえば、まずは「食感」でしょうか。つるん、ぷるんとして、口に入れると、とろんとなじんでいくあの食感や喉ごしは、ほかの料理ではなかなか味わえないものです。江戸時代の浮世絵にも白玉やところてんなど、つるん、ぷるんとした涼味・甘味を食べるシーンが登場します。

この食感が好きな人はアジア圏に多いように思います。それはおそらく米食文化の影響です。お米は多めの水で炊けば「(かゆ)」になり、もち米をつけば「餅」になる。「とろとろ」から「もちもち」まで、普段からこうした食感になじんでいますからね。

また、食べたときに感じる豊かな「風味」も魅力のひとつです。それも強烈な香りではなく、優しい香りなのがいい。また、この料理は歴史があって完成されているので、現代の食卓に並べても(りん)としています。食欲の落ちる夏季にぴったりの料理と言えるのではないでしょうか。

浮世絵「当盛六花撰 紫陽花」

歌舞伎役者がところてんを持って見栄を切る浮世絵「当盛六花撰 紫陽花」(安政元年 1854年/三代歌川豊国・歌川広重)(国立国会図書館蔵)

「ごまとうふ」は普茶料理から

ごまの香ばしい「香り」と、口に入れたときの「味わい」、この両方を楽しめるのが「ごまとうふ」の魅力です。嗅覚と味覚の両方でおいしいと感じられる料理というのは意外と少ないものです。

麻腐

「ごまとうふ」は、いんげん豆でおなじみの隠元禅師が江戸初期に中国から日本へもたらされた「普茶(ふちゃ)料理」が由来とされています。普茶料理の中で「麻腐(まふ)」と呼ばれるのが「ごまとうふ」のこと。いりごまをよくすり、さらに粘りが出るまで火にかけて練り、型に入れて自然冷却させるという、とても手間のかかる料理です。現在でも食が修行のひとつである禅宗の寺々では、完成まで手間ひまかけて「ごまとうふ」を作っています。

今でも隠元禅師が開いた宇治の萬福寺近くに普茶料理の店があり、この味を楽しめます。私も小学生の頃、父に連れられてこの店の麻腐を初めて食べ、「これって、ごまとうふじゃないの?」と思った記憶があります。江戸時代の料理本『料理珍味集』宝暦14年(1764年)、『豆腐百珍 続編』天明3年(1783年)、『精進献立集』(1819年)などにも、当時の「ごまとうふ」の作り方が載っています。

『豆腐百珍 続編』
『豆腐百珍 続編』

『豆腐百珍 続編』に掲載されている「ごまとうふ(麻乳)」レシピ(国立国会図書館蔵)

「玉子とうふ」のルーツとは

私たちが食べている「玉子とうふ」と、江戸時代の「玉子とうふ」では違う料理だったようです。当時の「玉子とうふ」は卵と豆腐をすり鉢で合わせて蒸したものでした。名前そのままずばりですね。

玉子とうふ

現在のスタイルである、卵とだしを合わせて蒸した「玉子とうふ」というのは、『南蛮料理書』(江戸時代初期のものと推定される)で見られるくらいで、ほかの文献にはありません。しかし、卵料理で有名な「ふわふわ玉子(玉子ふわふわとも言う)」というものがあります。それは茶碗蒸しの原型でもあるのですが、茶碗蒸しと「玉子とうふ」の違いは卵とだしの割合の違いだけなので、この「ふわふわ玉子」が現在の「玉子とうふ」の発祥であると考えられます。

現代の手作りする「玉子とうふ」は、卵とだしを等分で合わせて蒸すのですが、作り方はシンプルでも意外と繊細で、材料の良しあしで味に大きな違いが生じます。簡単そうに見えて意外に難しい料理なんです。

玉子ふわふわ

江戸初期の料理本『料理物語』に掲載されている「玉子ふわふわ」を柳原さんが再現

天武天皇(飛鳥時代)のいわゆる「肉食禁止令」(675年)以降、日本では表だって畜肉を食べてきませんでした。ニワトリも江戸時代以前までは食用ではなく、時を知らせる鳥や闘鶏用として飼われていました。ですから、卵も表だっては食べられておらず、一部の南蛮料理や珍しい料理として使われる程度でした。

その後、江戸時代に入ると、ニワトリや卵を公然と食べるようになります。江戸初期を代表する料理本『料理物語』寛永20年(1643年)には鶏料理が書かれており、卵も使われるようになりました。その後、『萬法料理秘密箱(玉子百珍)』寛政7年(1795年)が刊行されるなど、卵が普段の食材となっていることが分かります。

夏をいただく「枝豆とうふ」

枝豆は平安時代には食されていたようで、江戸時代になると路上で枝豆売りの姿が見られたようです。枝豆は「枝付き豆」や「枝成り豆」の略称で、『守貞謾稿』天保8年(1837年)にも「湯出菽(ゆでまめ)売り」が載っています。その説明によると、江戸は枝付きで、京坂は枝から外した状態で売っていたようです。

枝豆とうふ

この枝豆をすりつぶして寒天などで固めたものが「枝豆とうふ」。いつ頃から作られるようになったのか文献にあたりましたが分かりませんでした。「ごまとうふ」の変型で、とくに夏の素材を丸ごと味わう料理として発祥したのでしょう。枝豆の代わりに「落花生(ピーナツ)」や、最近では「扁桃(へんとう)(アーモンド)」を使ったものもあります。私の料理教室(柳原料理教室)でも(くず)寄せとして枝豆やいろいろな食材を入れて作ることがあり、生徒さんのあいだでも人気です。

『守貞謾稿』に描かれているゆで豆売り。右側が枝付きの江戸スタイルで、左側が枝を外した京坂スタイル(国立国会図書館蔵)

歌川豊国の『画帖時世粧 上之巻』享和2年(1802年)に描かれている子連れの枝豆売り(国立国会図書館蔵)

和食料理人 野﨑洋光のごまとうふなどのレシピ

「ごまとうふ」は、自分で作ろうと思ったら完成までとても時間がかかる料理、「玉子とうふ」の主な材料は卵とだしだけでとても奥が深く繊細な料理。これらを昔の人は手間ひまかけて作ったけれど、現在は市販品があるので、気軽に楽しみたいですね。
「紀文のごまとうふ」は完成度が高く趣のある品だから、皿に盛るだけではもったいない。味はなめらかなので、ほかの食材と混じり合う食感が秀逸で、ごま本来の味を生かしたレシピがおすすめです。一方、「紀文の玉子とうふ」は、だしを染み込ませ味付けしてているので余計な調味は不要です。今回のレシピ「揚げ出し玉子とうふ」は、喉ごしと品のあるだし感を生かしました。
さあ、先人の知恵を学び、伝統を現代に取り入れて、家庭で和食を楽しみましょう。

野﨑流三カ条ごまとうふ・玉子とうふ活用術

  1. ごまとうふは、少し手間をかければ立派なおもてなし料理に。
  2. ごまとうふは豆腐と違い、小さく切っても崩れにくく美しく仕あがる。
  3. 玉子とうふの淡い色合いは、視覚で楽しむ日本料理の大事な要素。