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紀文アカデミー

【伝統食品】教室 くずもち

江戸期発祥「関東風くずもち」

講師:小山信太郎先生(紀文食品『くずもち』の製造元、山信食産 代表取締役)

「くずもち」には葛粉で作る透明な「葛餅(くずもち)」と、小麦でんぷんで作る乳白色の「久寿餅(くずもち)」の2種類があります。葛餅を「関西風」、久寿餅を「関東風」と呼ぶことも。東京で「久寿餅」を製造する山信食産・小山信太郎さんに聞きました。

江戸期発祥「関東風くずもち」

日々の食事に欠かせない発酵食品

私たちの食事を思い浮かべてみると、朝食に味噌汁や納豆、昼食にピクルスの入ったチーズのハンバーガー、ティータイムに紅茶、そして晩酌にワインとアンチョビペーストが乗ったクラッカーなど、実にさまざまな発酵食品と接していることに気づきます。

発酵食品

発酵食品は、食材についた菌やカビ、酵母などの微生物の作用で生まれたものです。この微生物は食品中のたんぱく質や糖分をエサにして生きており、このエサとなる栄養素を取り入れると、それが別の物質に変化することを「発酵」と呼びます。微生物にも種類があり、麹菌などから味噌・日本酒、納豆菌から納豆、酢酸菌から酢、乳酸菌からヨーグルトや漬物などができます。

ここ数年、キムチやヨーグルトパワーなどが話題になっており、発酵の研究も盛んに行われているようです。意外と知られていませんが、今回お話しする「久寿餅(くずもち)」も、長期発酵によって完成する和菓子として見直されています。

乳酸菌による発酵食品「久寿餅」

紀文ブランド『くずもち』私は、この発酵食品である「久寿餅(くずもち)」の紀文ブランド『くずもち』を製造している山信食産の小山信太郎と申します。昭和30年創業、私で三代目です。東京・江戸川区にある工場でおいしい「久寿餅」を造るために日々精進しております。

小麦粉のでんぷんから作られる乳白色で、もっちりした「久寿餅」は、亀戸天神社(江東区)、池上本門寺(大田区)、川崎大師(神奈川・川崎市)など関東の門前町の名産品となっています。実は、「久寿餅」というのは()と深い関係があります。精進料理の材料としても有名な麩は、修行僧などの貴重なたんぱく源として豆腐とともに古くから愛されてきました。麩は小麦粉から取り出したグルテンをもとに作られ、その際、水に溶けたでんぷんが大量に残ります。そのでんぷんを発酵させ蒸したものが「久寿餅」です。

麩

これは小麦でんぷんが乳酸菌により発酵することで食用になることを発見した、昔の人の知恵の結晶です。ほんのりとした酸味と香りがするのも乳酸菌の発酵がなせる技と言えるでしょう。

誕生は江戸の飢饉から

浮世絵に見る江戸の食卓

白玉をすくう女性が表紙の『浮世絵に見る 江戸の食卓』(林 綾野/美術出版社)

ここで「久寿餅」の誕生秘話をご紹介しましょう。

天保の頃(1830年頃)、あるところに久兵衛(きゅうべい)なる男がおりました。この男、風雨強き夜、納屋に蓄えた小麦粉が雨でぬれ損じたため、むなしくこれをこねて樽に移し、水に溶いて放置しておきました。

明くる年の飢餓(天保の大飢饉)に際し、思い出して調べたところ、この小麦粉、歳月を経て発酵し、樽の底に純良なるでんぷんが沈殿しているのを発見。これがあまりにもひどい臭いだったので食べるにも食べられない。少しでも臭いを消そうと数日水洗いし、ちょっと臭うけど"腹に背は代えられぬ"ということで、「火を通せば腹は下らぬだろう」とダイナミックに蒸し上げた。すると、風変わりな餅ができあがり、それを食したのが江戸の「久寿餅」のはじまり、と言われています。

久兵衛、この餅を腹の減った村の人々に配り、飢饉を救う英雄となりました。そこで英雄・久兵衛の「久」、飢餓を救った「餅」、無病長寿の祈願を込めて「寿」、それぞれ1文字を取り、その名を「久寿餅」となったのだとか。

そういえば、江戸時代の浮世絵には、茶屋で菓子を食べる女性のシーンが残されています。江戸の昔からカフェ(茶屋)に通う"スイーツ女子"はいたんですね。

人気コミックにも登場

コミック『JIN ー 仁 ー』

© 村上もとか/集英社

江戸時代に誕生した「久寿餅」。テレビドラマになったコミック『JIN ー 仁 ー』(村上もとか原作・集英社刊)の中にも登場します。

物語の舞台は幕末。病気で食欲のない母のために、娘は主人公の医師・南方 仁(みなかた じん)の協力を得て菓子を創作します。しかし、母は菓子が大嫌い。そこで仁は「珍しいお土産をもらった」と言って、いろいろな菓子を食べさせます。その中の1つに、小麦でんぷんを発酵させて蒸した「久寿餅」が登場するのです(集英社 第8巻)。

コミック『JIN ー 仁 ー』

© 村上もとか/集英社

手間ひまかけた作り方

それでは、現在の「久寿餅」の作り方をご紹介します。

<分離>

小麦粉に水を加えて練り、絞るとグルテンが残り、水溶性のでんぷんが流れ出てきます。グルテンは麩になり、小麦でんぷんは「久寿餅」になります。

分離
<発酵>

小麦でんぷんを寝かせて1〜2年ほど自然発酵させます。すると乳酸菌が小麦のでんぷんを酵素分解して粉々にします。長く寝かせることで滑らかな口当たりに、さらに粉々になることで腸に負担なく消化されます。ただし、長く発酵させることで酸っぱい匂いが強まるので、その後の水洗いが必須となります。

発酵
<水洗い>

発酵した小麦でんぷんを水の中に入れ、攪拌します。灰汁(あく)が上がってくるので、これを取り、1日待つと原料となる液が底に溜まり、水と分離します。上の水を取り除き、新しい水を入れて……この工程を5日くらい続けると、現代人の口に合う、少し酸味の残る淡い風味になります。

水洗い
<攪拌>

水洗いされた液に熱を加えることで、でんぷんを膨らませ、とろみを出します。このとろみを出さないと餅にはなりません。お湯を入れる工場もありますが、当社では蒸気を使用し、手作業でかき混ぜます。均一のとろみにしなければいけないので、この製造過程は熟練した職人の技が必要です。

攪拌
<蒸す・成型>

とろみの出た液を型に入れて蒸すことで餅になります。これを切ると「久寿餅」の完成。

蒸す・成型
<黒みつ、きな粉>

昔の「久寿餅」の水洗いの回数は現在の5回より少なく、乳酸菌発酵による独特の酸味が強いものでした。その酸味をマイルドにするために「黒みつ」と「きな粉」をかけて食べるようになったようです。水洗いの回数が増え、ほんのりと淡い酸味がする現在の「久寿餅」にも「黒みつ」と「きな粉」は定番アイテムとなり、自社工場で製造する黒糖を使った昔ながらの「黒みつ」と、香ばしい味わいの「きな粉」もお客さまにご提供しています。

《消費期限》

蒸しただけの「久寿餅」の場合、消費期限は2日程度。紀文食品の商品では、日持ちさせるために真空パックした後、二次加熱で殺菌しています。

多くの人にこの味を

山信ブランドの「江戸久寿餅」(消費期限2日間)は直売所や通信販売、百貨店の催事コーナーなどで販売するほか、都内の和菓子店などにも卸しています。

「久寿餅」は歴史がありおいしい和菓子です。全国のみなさんに召しあがっていただきたいのですが、どうしても日持ちがしません。そのため長い間、関東エリアを中心の販売に限られていました。私の父が社長だった昭和40年代に、紀文さんから「日持ちする商品を作れないか」というお話をいただきました。試行錯誤しながら共同で技術開発を行った結果、真空パックにして二次加熱・殺菌するというスタイルができました。これにより30日間常温保存できることから、全国に向けた販売が可能となりました。

紀文の「ちくわぶ」

この加熱・包装の技術は紀文の「ちくわぶ」にも応用されたと聞いています。「ちくわぶ」は小麦のグルテンを含んだ強力粉に水と塩を加えて練り上げた、関東発祥の食品。昔は包装せず、豆腐と同じように水に浸けられた状態で売られていたそうです。たまたま紀文さんの「ちくわぶ」の製造元とうちが近所で、顔なじみだったため、この技術を紹介。おでん種の「ちくわぶ」を全国展開するために「久寿餅」と同じ技術を活用したとのことです。

「久寿餅」の未来

歯切れの良い食感の「久寿餅」。最近ではこの弾力を生かして、サイコロ状に小さく切ってタピオカ風のドリンクにするなど、新しいスイーツが生まれています。私もこのスイーツを「クズクズシェイク」と名づけて愛飲しています。みなさんもタピオカの代わりに使ってみてはいかがですか。それ以外にも、うちの妻はカラダにうれしい発酵食品ということで、サラダのトッピングに使っています。また、「久寿餅」は黒みつときな粉をかけるのが王道ですが、バルサミコ酢をかけてもおいしいですよ。ぜひ一度試してみてください。

小山信太郎(こやま・しんたろう)さんプロフィール
小山信太郎(こやま・しんたろう)さん

株式会社山信食産 代表取締役。昭和30年に創業し、「久寿餅」を専門に製造する山信食産の三代目。「久寿餅」の製造量では日本一。現社長になり、オンラインショップでの直販を開始。チョコレートなどを練り込んだハート型の久寿餅なども限定販売している。 www.yamashin-shokusan.co.jp

渡辺あきこ先生のくずもちレシピ

レシピを作ってみて「紀文さんのくずもち」の奥深さにはまりそうです。和菓子やでんぷんを使用した食品は日持ちがしないものが多いのですが、このくずもちは日持ちがします。あんみつなどの和スイーツで出番の多い白玉団子は手作りすると手間のかかるものなので、くずもちを代わりに使えば簡単ですね。また、モチモチとした食感や味わいも、何にでも合う「ごはん(白飯)」みたい。ごまとうふのようにわさび醤油もよく合います。ぜひご家庭で常備して、「江戸風スイーツ」にチャレンジしませんか。

渡辺流「くずもち」レシピ三カ条

くずもちは冷やしすぎると固くなるので、食べる直前に氷で冷やすのがおすすめ。

くずもちは「餅」とは違い、型崩れしにくく、細かく切っても美しく仕あがるのでおもてなしにぴったり。

くずもちで、スイーツメニューを作るときは、くずもちに甘さが絡みやすい大きさに切る。

抹茶くずもち抹茶くずもち

抹茶の緑色が美しい江戸情緒を楽しめる甘味の一品。

この料理のレシピはこちら→
クリームあんくずもちクリームあんくずもち

甘味の定番「クリームあんみつ」をくずもちでアレンジした一品。

この料理のレシピはこちら→
フルーツくずもちフルーツくずもち

果物の酸味がおいしい「フルーツあんみつ」をくずもちでアレンジした一品。

この料理のレシピはこちら→

渡辺あきこ(わたなべ・あきこ)さんプロフィール
渡辺あきこ(わたなべ・あきこ)さん

料理研究家。東京都出身。専門は日本の家庭料理。日本各地の郷土料理の研究をライフワークにして、料理教室や講演会などの合間をぬって各地に足を運んでいる。NHK「きょうの料理」「あさイチ」に出演。