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紀文アカデミー

【おでん】教室 基礎

味がしみ込むとは

講師:佐藤瑶子先生(お茶の水女子大学)

おでんに味がしみ込むという現象は、どのようなメカニズムで起こるのでしょう。調理科学を研究しているお茶の水女子大学の佐藤瑶子先生に、「味のしみ込み」についてお聞きしました。

味がしみ込むとは

濃度の高いほうから低いほうへ

Qおでんに味がしみ込むというのは、どのような現象なのでしょうか?

Aこれは「拡散」と呼ばれる物理現象です。拡散とは、物質の濃度が高いほうから低いほうへと移動し、同じ濃度になろうとする動きのこと。たとえば、おでんのだし汁と大根。だし汁のほうがうま味成分や食塩の濃度が高いので、だし汁から大根へと成分が移動していきます。

しかし、大根には細胞膜があるので、通常、水分は移動しても他の成分は大根の中には入っていきません。ところが50~60度の温度になると細胞膜の機能が低下し、だし汁の成分は細胞内へ拡散しはじめます。それはほかの野菜類も同じです。(図1参照)

つまり、野菜類は常温のだし汁にただ浸けておくだけでは味がしみ込みませんが、加熱することで細胞膜の機能が低下して味がしみ込むというわけです。拡散は温度が高いほうが速くなります。

一方、焼ちくわやさつま揚など練りもの類は、うま味成分や食塩の濃度がだし汁よりも高いので、だし汁のほうに味が移動します。練りもの類は煮すぎないほうがよいのはこのため。煮すぎるとうま味がなくなってしまいます。とくにはんぺんは内部に気泡が多く、温度が高いと気泡が膨張してしまうので温める程度で十分です。

ただし、流れ出すことすべてが悪いわけではありません。だし汁に練りもののうま味成分が混ざり合い、それが野菜などにしみて、おいしさが増します。

(図1)大根の食塩濃度シミュレーション

佐藤先生コメント

「異なる温度の食塩水に大根を浸けたときの食塩濃度の変化をシミュレーション(2cm角、1%食塩水)しました。20℃、4℃は加熱したあとの大根を想定しています。温度が高いほど食塩は早くしみ込むので、短い時間で大根の味は濃くなることがわかります。ただし、沸騰状態が続くと煮くずれてしまいます」

出典:「お茶の水女子大学 SHOKUIKUレポート」(佐藤瑶子先生作成)

コトコト煮ることの効用

Qおでんはコトコト煮るとおいしくなると言われます。その理由はなんでしょうか?

Aおでんは弱火でコトコト煮るほうがよいのにはいくつかの理由があります。まず、沸騰時の気泡によるおでん種への刺激が少ないこと。おでん種の表面が気泡によって損傷したり、種もの同士がぶつかり合ったりせず、穏やかに味がしみていきます。つまり、煮くずれ予防になるというのが1つ目。

2つ目は、大根など根菜類は80度以上の高温で煮ると温度が高いほど軟化しやすいことが挙げられます。野菜は沸騰よりも温度が2〜3度低いだけでも軟化は穏やかになります。コトコト煮ることで、軟らかくなる時間をコントロールしやすく、味もゆっくりしみ込むことで、表面と内部とのうま味成分や食塩の濃度差が小さくなるというわけです。

火を止めてのしみ込みとは

Qおでん専門店によっては、加熱の途中で火を止めてそのまま放置する作り方があります。これはどのような効果があるのでしょうか?

A意外に勘違いしている人が多いのですが、「冷めるときに味がしみ込みやすい」わけではありません。温度が高いほど味のしみ込みは速いので、火を止めてからのほうがゆっくりしみ込んでいきます。途中で火を止めているのは、煮くずれを防ぐためと考えられます。

野菜は80度以上であれば、加熱を続けていなくても軟らかくなります。そのため、しっかり軟らかくなる前に火を止めても、その後の余熱で大根は軟らかくなります。そのお店も、途中で火を止めることで野菜などが軟らかくなりすぎない(煮くずれしにくい)ようにしながら、ゆっくりと味をしみ込ませているのでしょう。火を無駄に消費せず、省エネにもなります。

しかし、一般家庭では夕食の準備に長時間を費やすのは難しいでしょうから、トータル45分程度煮れば十分だと思います。(「おでんのおいしい作り方」レシピ 参照)

佐藤瑶子(さとう・ようこ)さんプロフィール
佐藤瑶子(さとう・ようこ)さん

お茶の水女子大学 基幹研究院 自然科学系助教。博士(生活科学)。管理栄養士。「おいしさ」を科学的に解き明かす活動を行い、とくに品質が一定でおいしい給食を提供するための調理条件について研究。