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練りもの教室

アジア練りもの 台湾編

  • 講師:後藤 ウィニー先生(料理研究家)
  • 講師:森枝卓士先生(写真家、ジャーナリスト)

海に囲まれた台湾では、おでんやさつま揚などを始め魚料理がたくさんあります。後藤さんには映画で有名な九份(チョウフェン)の練りものなどを、森枝さんには食文化の受容にも寛大な台湾での体験談をお話いただきます。

「おでん」や「てんぷら」、練りもの料理が豊富な台湾

後藤 ウィニーさん 後藤 ウィニーさん
1958年、台湾生まれ。台湾で働いたのち日本人と結婚して来日。日本の食材で作るWinnie流の台湾料理が評判となり、料理の道に専心することに。現在は料理教室「winnies-kitchen」を主宰するほか、雑誌などで活躍。2女の母でもある。 著書に、「Winnieの台湾キッチン」(文化出版局)。

プレーンからカラフルなものまで、
台湾には練りものがたくさん

海に囲まれた台湾では、魚は毎食のようにいろいろな料理で食べられています。台湾料理では豚角煮に魚団子が入っているなど、日本と比べても魚と肉を合わせることが多く、とくに、練りものは調理の手軽さから、様ざまな料理に使われています。
台湾全土、どこの市場やスーパーでも見かけますが、映画のロケ地にもなった“九份(チョウフェン)”でも、白身魚で作った魚団子が売られています。プレーンなものはもちろん、炭、紅麹でカラフルに色づけされたもの、キムチを練りこんだものなど、バリエーションに富んだ種類があり、お土産として買い求める人もいます。

九份の練りもの。左は紅麹とプレーン、右は炭とキムチ

九份の練りもの。左は紅麹とプレーン、右は炭とキムチ

また、“高雄(カオシオン)”や“台南(タイナン)”など南西の海辺の街では、「虱目魚(シームーユイ)」の養殖が盛んで、これも魚団子に加工されています。高雄では、ほかにイカ団子もよく食べられています。
最近の台湾では野菜やスパイスなどを入れた食感や彩りの良い練りものが増えていて、昔に比べると、様ざまな味を楽しめるようになったと思います。 台湾では、すり身を買って調理することも多く、具を加えて揚げるほか、団子状にしてスープに入れたりしています。

※学名:Chanos chanos、和名:サバヒー。淡泊な味わいの白身魚で、台湾ではよく食べられている。

屋台料理は練りものが主役!?

観光スポットとしても有名な夜市などの屋台では、汁ものや炒めもの、点心など、練りものを主役にしたメニューがたくさん並んでいます。今回ご紹介する「鶏捲(ジーチュエン)」と「肉羮(ロウカン)」もそのうちの一つで、どの市に行っても必ず食べることができる定番料理です。
「鶏捲」はほかにも、豚肉やエビ、イカなど、様ざまなものを具に使い、ワンタンの皮で巻いたもの、巻かずにそのまま揚げたものなど、いろいろなバリエーションがあります。屋台料理としては少し値が張るので、子どものころはたまに母が買ってきてくれるのがとても楽しみでした。来客のあるときや家族の祝いごとに、食卓に登場していたのを覚えています。

一方、「肉羮」は、毎日の食事や軽食として気軽に食べるメニュー、「羮(カン)」はとろみのついたスープのこと。お店によってほかにも、豚肉、スルメイカ、魚の切り身、うなぎなど、違った具を使っているので、それぞれ、お気に入りの店に食べに行きます。

「おでん」や「てんぷら」、
日本になじみ深い練りもの料理も

台湾には、「鶏捲」と「肉羮」以外にも練りもの料理が豊富です。
なかでも、一番人気があるのは、イカのすり身をピンポン玉大に丸めた「花枝丸(ホワヅーワン)」。これは、冷凍の花枝丸がスーパーなどで売られているので、自宅で揚げます。プリッとしたイカの食感がよく、いくつも食べてしまうおいしさです。

次に、魚団子の代表料理といえば「魚丸湯(ユイワンタン)」でしょう。あっさり味の澄んだスープに魚団子を浮かべて、みじん切りのねぎやセロリを散らすだけのシンプルなメニューです。これは台湾だけでなく中国でも好まれていて、台湾から程近い中国・福建省の“廈門(アモイ)”には専門店がいくつもあるほど。ここで供されている「福州魚丸(フージョウユイワン)」はふわっとした食感の魚団子のなかにジューシーな肉餡が入っているのが特徴です。

それから、日本でおなじみのおでんは台湾でも人気のメニューで、「関東煮(グァンドンジュー)」「黒輪(オーレン)」「天婦羅(ティエンフールォー)」と、地域や材料によって呼び名は変わりますが、どれも見た目は日本のおでんによく似ています。鶏ガラスープや中華スープで煮込み、ケチャップとチリソースを混ぜた甘辛いタレやごまダレなどをつけていただきます。

「天婦羅」は「甜不辣(ティエンプラー)」と書くこともあり、こちらの場合は揚げたてのさつま揚を売っていることが多く、“基隆(キールン)”などの名物としても知られています。

台湾の市場で売っている作りたての練りもの

台湾の市場で売っている作りたての練りもの

台湾の食を日本の家庭でもぜひ味わって

台湾は共働きが一般的なために、家族での外食が頻繁ですが、私の母は台所に立つことが多く、娘の私にも台湾の伝統料理や、わが家の味を教えてくれました。
結婚を機に来日してからは日本で故郷の味を再現しようとしましたが、当時はまだ台湾の食材や調味料が手に入りにくく、日本にあるもので代用するなどの試行錯誤を重ねた結果、満足のいく台湾料理を作ることができるようになりました。

「肉羮」で使用する「工研烏酢(ゴンイェンウーツゥー)」や「沙茶醤(サーチャージャン)」は、現地の味には欠かせないもの。今では輸入食材店やインターネット通販で手に入りますが、ウスターソースや黒酢、XO醤などが家にあれば、代わりに使うのもよいでしょう。
私の家族をはじめ、日本の友人達も「台湾料理はおいしい」と言います。もともと日本人の味覚に合う料理ですから、ぜひ日本の家庭でも楽しんでほしいと思います。

「甜不辣」と「関東煮」、台湾練りもの事情

森枝 卓士(もりえだ・たかし)さん 森枝 卓士(もりえだ・たかし)さん
写真家、ジャーナリスト。大正大学客員教授。1955年熊本県生まれ。東南アジアを中心に世界中で取材活動を行う。カレーの漫画『華麗なる食卓』(集英社)の監修なども。著書に『食べているのは生きものだ』(福音館書店)、『食べもの記』(福音館書店)、『カレーライスと日本人』(講談社学術文庫)、『干したから……』(フレーベル館)など、食にまつわる著書、写真絵本など多数。

“海鮮烏龍”は海鮮うどん

海鮮烏龍。
台湾の食堂のような店で、壁にずらりと並んだメニューの中に、そんな文字がありました。何のことかお分かりでしょうか。
海鮮は、まあ、いいですよね。これはシーフードが入っているということは、誰でも分かるでしょう。問題は烏龍。烏龍茶(ウーロンチャ)だから、ウーロンと読むことは想像がつくものの、さて、烏龍茶で味つけした(煮込んだ?)何かか、あるいは烏のように黒くて、龍の爪のように捻れている(ということで、烏龍茶というのですけど)何かか、と考えたり。えーい、ものは試しと頼んでみると、烏龍はうどん。きつねうどんをけつねうろんという、関西弁のようなものでありました。

日本語と中国語の関係では、そのままの漢字が移入され、それぞれの発音で呼ばれるということも、音を受け入れて当て字ということもままありますが、これは後者だったというわけです。
それにしても、不思議な感慨。だって、そうでしょう。うどんは元々、中国大陸から伝えられた麺食ですもの。
餛飩(コントン)、あるいは餫飩(ウントン、コントン)などと書いていたものが、同じ音の温飩、饂飩となったといいます。とにかく、もとの意味はワンタンみたいなものだったり、麦縄、つまり唐菓子のようなものだったりとややこしいのですけど、中国から伝来した粉食であります。日本で発達した部分もあるとはいえ、そして、戦前の日本の植民地時代があった土地だからとはいえ、それがそのような名前で中国文化圏に「里帰り」しているのですから。

まあ、改めて考えてみると、中国の湯麺が、日本式アレンジを経て、ラーメンとなり、あるいはそこから派生したインスタントラーメンが台湾や中国本土でも受け入れられて、当たり前の存在となっているのですから、うどんが烏龍となっても、不思議はないのでしょうか。
そうそう。そのお味。概して台湾でより一般的な牛肉麺(ニュウロウミェン)や台南担仔麺(タイナンターミー)あたりと比べると、麺は太めでこしがなく、あっさりめのスープ。そして、このお話の主役、練りものがのっていたり(あるいはエビのてんぷらだったり)で、なるほど海鮮烏龍かというわけ。

ともあれ。前振りが長すぎました。

“甜不辣”はテンプラでさつま揚

海鮮烏龍を久しぶりに思い出したのは、お話のテーマのひとつ、「甜不辣」のことがあるからでした。もう、だいたいご想像がつくと思われますが、そう、ティエンプラーといったような音で、テンプラであります。ただし、うどんをうろんというのと同じくらい、お話に捻りが効いているのが、これ、天麩羅ではなく、さつま揚であること。つまり、練りものを揚げたものであります。

まあ、私たち、九州人には何の驚きもなく、コショウといえば、唐辛子の場合もあり、胡椒のこともあるのと同様(九州ではそうなのです。だから、唐辛子でも柚子胡椒なのです)、テンプラといえば、天麩羅の場合もあれば、さつま揚(と他所の地域では呼んでいるもの)であることもある。そんな関係です。

台湾のおでんの屋台。「関東煮」の看板がかかっている。

台湾のおでんの屋台。「関東煮」の看板がかかっている。

台湾のおでん

台湾には甜不辣と呼ぶ練りもの、および、それをおでんのように煮込んだもの(これも含めて甜不辣と呼んだり)がある、ふつうに食べられているということです。あるいは、このおでんのようなもの、関東煮とも呼ばれています。そう、関西風の呼び方と同じであります。コンビニのレジ脇に関東煮と書かれて湯気が出ているのを見たりすると、さて、どこに私はいるのだろうと思ってしまうほど。

まあ、さつま揚、あるいはちくわみたいなものや大根などと一緒に、豚の血をもち米とともに固めた(チューシュエカオ)が入っていたりで、異文化を感じたりもしますけど。とりあえず、そのお味、「甜不辣」、つまり、甘い、辛くはないという意味であるくらいですから、日本の、特に関東のおでんなど食べ慣れた層には甘く感じるおでんでしょうか。 比較的甘い味が好まれる九州の感覚では、豚の血は別にして、違和感はさほどないかなと思われる程度のもの。日本人にも、ふつうにおいしく食べられるはず。まあ、もとが日本のおでんだから、それがどう受け入れられ、変化したのかとラーメンのことやら考えつつ、食べたら、余計に興味深く面白く食べられると思われますが。

台湾の練りもの “魚丸”

このほか、ぱっと思いつく練りものとしては、これは日本とはまったく関係ないものだと思うのですけど、まるではんぺんのような食感で、しかし、団子状に丸めた魚のすり身をゆでるなり、煮るなりした魚丸もあります。湯麺のようなスープに浮かんでいて、魚のすり身の中に豚の挽肉の餡が入っていたりします。そういえば、豚や牛など肉のすり身の団子みたいなものもいっぱいありますね。むしろ、魚に限ったものではないと思ったほうがいいくらい。

そうそう。そういえば、肉でも魚でもなく、素食や素菜と呼ぶ、精進料理の練りものもあれこれあります。「素食」という看板もあちこちにあり、精進料理も盛んです。仏教のそれから発して、現代的には肉の食べ過ぎに対する反省みたいなものから、ダイエット食として、とくに受け入れられているように見受けられます。で、小麦の中に含まれるグルテンを使ったり、あるいは大豆などを用いて作る練りものもスーパーなどで普通に売られていたりします。けっこう、おいしいものがあります。

グルテンや大豆などで作った肉や魚介を使った精進料理。魚、アワビ、カラスミ、牛肉、鶏肉など、本物そっくりな“モドキ”。

グルテンや大豆などで作った肉や魚介を使った精進料理。
魚、アワビ、カラスミ、牛肉、鶏肉など、本物そっくりな“モドキ”。

台湾の食文化の奥深さ、興味深さ

練りものも含めた台湾の食文化の奥深さ、興味深さはその歴史によるものだと思われます。かつて日本人が高砂族と呼んだ先住民は、アミ族など東南アジア方面につながる人々です。様ざまな民族が今もいますが、その先住民の土地に中国大陸から人々が渡ってきたのは17世紀のことでした。
それが、とくに対岸の福建省から移り住む人々で、以来、台湾は漢族の世界に組み込まれます。福建も海辺の地域ですから、当然、海産物を食べる術を豊富に持ち合わせている食文化です。沖縄や長崎のチャンプルやチャンポンのような料理は、福建との関係によるものです。沖縄も長崎も、もともと、中国といえば、福建との関係であったということです。そして、台湾の食文化のもとも福建から渡って来た人々が作り上げているということです。

そして、日本の植民地時代を経て、太平洋戦争終結後、中国全土、様ざまな地域の人々がやって来て住みつきます。そういうわけで、小さい島ながら、中国各地の食の文化が混在しているということなのです。

本省人と呼ばれる人々の中にも、先住民や福建(閔南〔ミンナン〕)人、それに客家(ハッカ)と呼ばれる特別なグループもいます。それぞれの食の文化があります。
そのうえに、それを越える中国各地の食の文化が入り込み、混在したり、混じりあったりするようになった、ということなのです。

また、そのような歴史ゆえに、その混在のゆえに、日本の食文化の受容にも寛大であったということなのです。
そして、そのような混在と寛容の文化の中で経済発展を遂げたからこそ、食文化の点から見ても、非常に興味深い豊かな世界ができあがってるということなのです。そのなかに、烏龍も甜不辣もある、ということなのです。