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紀文アカデミー

【鍋】教室 生活

優れた栄養食、豆乳鍋

講師:橋本玲子先生(公認スポーツ栄養士)

スポーツ栄養を専門に、プロアスリートや子どもたちの栄養サポートを行っている公認スポーツ栄養士の橋本玲子さん。和食や鍋のメリットと豆乳鍋の良さ、日常生活における私たちの食とアスリート食の共通点などについて聞きました。

優れた栄養食、豆乳鍋

栄養バランスと食べる楽しさ

栄養バランスやコミュニケーションの観点から、私がいま注目しているのが「鍋」です。きっかけは、私が食事と体組成の変化を調査している高校相撲の強豪校の食事でした。監督夫妻は食の重要性を認識し、食事は3食とも手作り。夕食はちゃんこ鍋が中心です。すると、入学当初は体脂肪率がかなり高かった子どもたちも、バランスの取れた食事とトレーニングにより、相撲に合った体を手に入れることができるようになりました。

鍋の魅力 五カ条

一. 主菜・副菜・汁物がひとつの鍋で作れる。

⇒肉、魚、豆腐、野菜、きのこ類などがバランスよく食べられる。

二. 油を使わずに調理ができる。

三. 締めを上手に活用することで、ごはんや麺類などの主食(炭水化物)もきちんと取れる。

四. 鍋を囲むことでリラックスでき、コミュニケーションが取れる。

五. 調理に手間がかからない。

基本的に栄養管理を専門家が担うプロスポーツ選手でも、合宿や寮を離れると食事の管理は自分ですることになります。もちろんスポーツ愛好家や、プロを目指す子どもたちにとっても、食事管理は日常生活の一部であり、それは私たちにとっても同様です。ですから、簡単に栄養バランスが取れる鍋は、理想的と言えるでしょう。

植物性たんぱく質も一緒に取れる「豆乳鍋」

豆乳鍋鍋は具とともに汁(つゆ)にも工夫すると、さらに栄養バランスに優れた料理となります。ここ数年、トマト鍋やキムチ鍋など、味のついた汁で煮る鍋が人気ですが、とくにおすすめしたいのは「豆乳鍋」です。豆乳には、大豆たんぱく、女性ホルモン(エストロゲン)に似た構造のイソフラボン、鉄、リノール酸、レシチン、サポニンなどの成分が含まれています。大豆由来のプロテインを飲むアスリートもいますが、汁ごと味わえる豆乳鍋なら、より自然に豆乳の成分を取ることができます。アスリートにはもちろんですが、女性や子どもにもすすめたいですね。

「規則正しい食生活」は一流選手ほど重視

私がこれまで、サッカーやラグビー、相撲など幅広い競技での栄養サポート経験を通じて確信したのは、「一流と呼ばれる選手ほど、規則正しい食生活を大事にしている」ということです。アスリートが体づくりやコンディション管理で気をつけていることは「疲労回復」「減量(体脂肪)」「スタミナ&筋肉量&集中力アップ」です。ですから、食事の条件は、【1】十分なエネルギー【2】低脂肪【3】高たんぱく【4】高ビタミン&ミネラルとなります。

しかし、食事は栄養バランスさえよければいいというものではありません。ハードなトレーニングの後は食欲もわかず、胃腸もデリケートになりがち。どんなに栄養バランスがよくても食べられなくては意味がありませんし、消化が悪ければ体に吸収されにくくなってしまいます。ですから、見ただけでも食べたいと思わせる彩りや、食べておいしいと感じさせる味わい、消化吸収のよい食材や調理法が、実はとても大きな要素なのです。アスリートはとくに五感が鋭いので、盛りつけにも工夫が必要です。鍋を仲間と囲むことで生まれるコミュニケーションも、リラックスのためにはとても重要なポイントです。

また、どの世代も共通で抱えている「ストレス」や「疲れ」。これは、バランスの取れた食事と規則正しい生活を取り戻すことで解消される部分も多くあります。子どものころから、しっかりとした食習慣を身につけておきたいですね。

理想的な栄養素が取れる「和食」

鍋だけでなく、「和食」は理想的な栄養素が取れる食事と言えます。ごはん(主食)とおかず(主菜、副菜)、汁ものの組み合わせが基本の和食は、ごはんでエネルギーを調節できますし、旬の食材を使ったおかずはビタミンやミネラルが豊富です。そして煮る、蒸す、焼く、ゆでるなどさまざまな調理法があるので、体調やニーズに合わせてメニューの調整ができます。さらに食欲をそそる見た目の美しさも和食の特徴です。和食は、スポーツ栄養学の先進国と言われる欧米からも注目されています。私はアスリートには年齢を問わず、和食を基本にし、補食として果物(糖分、水分、ビタミン、ミネラル)と牛乳・乳製品(カルシウム)を加えた食事を取るようにすすめています。このような食事を毎日取れば、特別なサプリメントなどは必要ありません。

「和食」とは健康な体づくりのための「バランス栄養食」

今回、アスリートの視点も交えながら、食について話してきましたが、アスリートに必要なのは機能に特化した「特別な食事」ではありません。種目別の調整は必要ですが、基本は「健康で速やかに疲労回復できる体づくりのための食事」であり、それは私たちの日常の食生活にも共通することばかり。ごはんを主食とした和食は、私たちの健康づくりにも役立ちます。

2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されたことで、「和食」はいま、世界から注目を集めています。実際、最近では栄養バランスだけでなく「おいしい」という理由から、「鍋」を好んで食べる海外のアスリートも増えてきました。“おいしさ”はまさに世界共通と言えるでしょう。そういう点では、実は意外と、私たち日本人が「和食」のよさを見落としているのかもしれません。今年の冬は、寒い季節の定番料理である「鍋」、とくに「豆乳鍋」に改めて注目しながら、健康でおいしい食事を楽しんでみてはいかがでしょうか。

<ワンポイントアドバイス 1>
練りもので毎日の食生活に手軽に魚介類を

鍋の基本は<良質なたんぱく質+野菜>の組み合わせ。良質なたんぱく質を取るためにおすすめなのは、練りものを上手に活用することです。そもそも魚介類は良質のたんぱく源ですが、切り身でもなかなか取り入れにくく、種類も鮭やギンダラなど決まったものに限られがちです。しかし、練りものであれば、イワシ、エビ、イカなど味のバリエーションも豊富ですし、プリプリッとした食感、色合いのよさ、食べやすさ、扱いやすさなどの点から考えても、毎日の食生活に手軽においしく魚介類を取り入れることができます。

<ワンポイントアドバイス 2>
「豆乳鍋」にプラスしたいおすすめ食材

練りものを組み合わせた豆乳鍋なら、豆乳の植物性たんぱく、練りものの魚肉たんぱく、野菜が一度に取れます。さらに、ビタミンB1を含む“豚肉”や、セサミンを含む“ごま”などを加えると、栄養価もアップし、幅広いバリエーションが楽しめます。

奥村 彪生(おくむら・あやお)さんプロフィール
橋本玲子(はしもと・れいこ)さん

公認スポーツ栄養士。スポーツ栄養を専門とする株式会社Food Connection代表。サッカーJリーグ「横浜F・マリノス」、ラグビートップリーグ「パナソニック ワイルドナイツ」の栄養アドバイザーを務めるほか、ジュニアアスリートや保護者を対象に、栄養セミナーなどを行っている。