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お正月のいわれ

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お正月のいわれ文庫

お正月と年神さま

お正月と年神さま 民俗学者 久保田 裕道

民俗学者 久保田 裕道(くぼた ひろみち)

正月には、各家にやってくるとされる「年神様」。年神様とはどんな神様なのでしょうか。また、正月は各家で行う祭りでもあり、祝い方も少しずつ違います。日本全国にはさまざまな正月の過ごし方があるのです。

コラム・お正月の来訪神

トシドン

鹿児島県薩摩川内市甑島のトシドン。
子どもが、もらった「年餅」を背中に
載せて運んでいる様子。

お正月には一般的な年神さまの他に、どこからともなくやって来る不思議な神さまたちもいます。こうした神さまを迎えるのは、家というよりも地域(村)。年に一度、その地域を訪れて人々に幸せをもたらす、そんな神さまのことを、民俗学では「まれびと神」とか「来訪神」と呼んでいます。

その代表的なものが、秋田のナマハゲ。「悪い子はいねがー」と叫びつつやってくる鬼のような存在で、地元でもその由来については様々な言い方をしていますが、本質的な部分では神さまなのです。ナマハゲのような来訪神は、秋田だけでなく、北日本の日本海側には数多く分布しています。

さらには鹿児島県の甑島(こしきじま)で大晦日の夜に訪れるのは、その名も「トシドン」。年神さまだと考えられます。やることはナマハゲと一緒で、子どもたちを脅して回るのですが、最後に「年餅」をくれるのです。餅には霊魂が込められていますから、年餅とは「年霊(トシダマ)」だと。これはトシダマと呼ぶわけです。いまでこそお年玉はお金ですが、もともとは年神さまが人間に分け与えてくれる霊力だったわけですね。

こうした神々が訪れる行事が、大晦日から正月、そして小正月や節分などに各地で行われます。新たな年に神さまを迎えて祭りをすることは、なにも元日だけではないのです。かつての日本人はもっと長いスパンで考えていたのですね。

どんど焼き

神奈川県山北町の小正月行事。どんど焼
きの火で、書き初めを燃やしたり、
だんごを焼いて食べる。

特に1月15日の小正月は、その前夜を年越しと言って、もう一度年越しをおこなう大切な日でした。「どんど焼き」などを始め、村でおこなうお正月行事は、三が日の正月よりもむしろ小正月に多かったと言えるでしょう。ナマハゲも、戦前は小正月が中心でしたし、他の来訪神も小正月に多く登場します。このように全国で様々な行事が行われてきた小正月ですが、近年15日の「成人の日」が移動休日になったために、多くの行事が廃れつつあるというのが現状のようです。


久保田 裕道(くぼた ひろみち)

1966年千葉県生まれ。博士(文学)。民俗学者。國學院大學兼任講師。東村山ふるさと歴史館学芸員。民俗芸能学会理事。儀礼文化学会幹事。 主な著書に「神楽の芸能民俗的研究」(おうふう)、「『日本の神さま』おもしろ小事典」(PHPエディターズグループ)、共著に「心を育てる子ども歳時記12か月」(講談社)、「ひなちゃんの歳時記」(産経新聞社)など。