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1年の幸せを願う「縁起担ぎ」は世界共通

お話・料理再現:江上佳奈美

 

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チェコのクリスマスマーケットでの販売しているコイ

これまでに数々の国を訪れ感じたことは、各国には、いろいろな季節に祝いや儀式があり、それらはその土地に根付いていて、そのひとつが正月で食するものも様ざまということです。

チェコやオーストリアはクリスマスが日本の正月にあたる1年で最大の祭日で、クリスマスイブにはコイを食べる習慣があります。はじめはクリスマスとコイのイメージが一致せず、路上マーケットで販売しているコイにびっくりした覚えがあります。不思議に思って聞いてみたら、クリスマスの前は肉を絶ち、身を清める意味があったからと教えてもらいました。

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ザクロは子孫繁栄を象徴する食べ物

日本の正月には、数の子は「子孫繁栄」、昆布は「ヨロコンブ」、田作りは「五穀豊穣」など語呂あわせや縁起を担いだおせち料理を食べます。
世界でも、「子孫繁栄」を願いザクロを、「幸福」を願い黒目豆(ブラックアイドビーンズ)を使った『ホッピンジョン』という料理を食べます。

また、スペインでは、年が変わる12秒前から、ブドウを食べる習慣があり、この時、12粒食べ切ることができたら願いが叶うといわれているそうです。

食べ物の謂れや語呂合わせは、日本だけではないんです。

中国では、白菜は、「百財」と発音が似ていることから、金運アップを願って食べ、包む料理に多く使用されるそうです。

また、正月料理ではありませんが、イギリスに「ウェルシュ・ラビット(Welsh rarebit)」という料理があり、古くはWelsh rabbitと綴っていて、ウェルシュ・レアビットと読むこともあったそうです。
ウェルシュ・ラビットは、その昔、ウェールズ地方のお父さんが狩りに出たのですが、何も捕れなかったので、お母さんがうさぎ(ラビット)のレアの一口(ビット=bit)よと言って、パンにチーズをかけた料理をふるまい、その料理が、ウェールズのラビットとして、広まったという話があるそう。
イギリスの童謡で有名な『マーザーグース』は、韻を踏むという特徴を持ちますし、イギリス人のジョーク好きも有名です。イギリスらしいウィットにとんだ話ですね。

日本では正月の準備というと、何日も前から計画的に行う方が多いですが、海外では「ちょっと特別なごちそうを食べる」という感じのようです。食器も普段よりグレードの高いものを使ったりはしますが、日本の重箱のような特別なものはありません。正月の器にこだわるのも日本ならではの文化といえますね。

ちなみに江上家のおせちといえば、なんといっても雑煮と煮物。雑煮は母の料理学院院長・栄子の故郷、佐賀の伝統を取り入れた具材を入れています。煮物は江上家で代々引き継いだ味付けで必ず作ります。家族で重箱を囲んで正月を迎えるとなんだか凛として清々しい感じになります。

このように、正月を祝う料理は国によって様ざまですが、食材に「願いや意味」を込めて1年の幸福を願うのは、世界共通です。
今回は、イラン・ジョージア・アメリカ・ブラジルの正月料理について紹介しましょう。

イラン/料理:サブズィ ポロウ バ マヒ
白米は「幸せを呼ぶ」とされる食材

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イランは「春分の日」を新年として祝います。その時に食べられるのが、「サブズィ ポロウ バ マヒ」という、イタリアンパセリ・コリアンダー・ディル・ニンニクを炊き込んだインディカ米に魚(マヒ)のソテーを添えた料理です。サフランで色付けした米がトッピングに使われていて、彩りも鮮やかです。

イランは米をよく食べる国で、サワーチェリーなどで色を付けた赤飯も食べられているそうです。



ジョージア/料理:サツィヴィ
繁栄や子だくさんの縁起物・ザクロ

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ジョージアでは新年に、くるみのソースをかけたローストチキン「サツィヴィ」をいただきます。

ジョージアはロシアと中東の間に位置しており、料理もそれぞれの食文化の影響を強く受けています。この「サツィヴィ」は中東寄りのお料理で、ザクロを使っているのが特徴です。「サツィヴィ」は「冷たい」という意味で、少し冷ました状態で食べることが多いようです。

ジョージアでザクロは「繁栄」や「子だくさん」の縁起物とされ、日常のちょっとしたごちそうにもトッピングとして使われています。日本ではあまりなじみのない食材ですが、世界では多くの国で縁起物として珍重されます。

また、ジョージアは古くから伝わる食文化を大切にする国。近年日本でも見られるようになった「オレンジワイン」も、昔ながらの製法で作られています。



アメリカ/料理:ホッピンジョン
幸運とお金を象徴する「黒目豆」

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「ホッピンジョン」は、ブラックアイドビーンズ:黒目豆(別名:パンダ豆)とインディカ米・ベーコン・玉ねぎ・カイエンヌペッパーを炊き込んだ、あっさりとした味付けの伝統料理です。

現代のアメリカでは豆料理は広く食べられています。豆は、アメリカの中でも特に南部のアフリカ系アメリカ人に腹持ちがよく栄養豊富な食材として活用され、豆料理は南部アメリカのソウルフードとして食されてきました。それゆえに今も大切に受け継がれているのでしょう。

黒目豆は、幸運とお金を象徴する食材といわれています。当時の人々も、新年にホッピンジョンを食べながら1年の幸運を祈ったのではないでしょうか。



ブラジル/料理:トルタ デ フランゴ
多国籍なブラジルのお祝いメニュー

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ブラジルの新年は「夏」。暑い季節にいただく祝いの料理が「トルタ デ フランゴ」です。トマトソースを絡めた鶏肉を小麦や卵を使った生地と合わせて焼き上げた、キッシュのような料理です。

世界各国からの移民によって形成されたブラジルは、生活している人々も、もちろん料理も多国籍。キッシュはヨーロッパではポピュラーな食べ物で、トルタ デ フランゴもその流れをくむ料理なのだと推察されます。鶏肉を使っているのも、宗教的な禁忌に触れることが少ないからではないかと思います。

調理法は簡単ですが、生地を寝かす必要があるので、ブラジルの人は日本でいう”大晦日” に新年を待ち望みながらトルタ デ フランゴを作っているのでしょうね。



江上佳奈美(えがみ・かなみ)さんプロフィール
江上佳奈美(えがみ・かなみ)さん

1959年東京生まれ。「学習院大学仏文科」及び「パリ コルドンブルー料理学校」卒業、「フランスチーズ鑑評騎士の会会員」「コマンドリードボルドー理事」「NPO食育インストラクター協会認定インストラクター」。
1989年より江上料理学院副院長をつとめ、祖母江上トミ、母江上栄子から受け継いだ伝統をふまえながらも、より現代的な料理を発表している。近著に『江上料理学院90年のベストレシピ100』

このページについて

このページ記載する正月(新年)の時期、行動、料理などは、該当国の全域的なものではなく、その国内に局所的に出現するものも含まれます。

参考文献

書籍名:『世界のお正月百科事典』 第1刷:2018年12月 発行所:柊風舎