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紀文の季節;鍋、おでん、豆乳鍋の知識を満載

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なべ;冬はやっぱりお鍋でしょう。山海の幸に恵まれた日本では、各地に自慢のお鍋があるのです。

プロフィール

近茶流宗家 柳原一成さん近茶流宗家 柳原一成(やなぎはら・かずなり)

近茶流宗家。1942年、先代宗家・柳原敏雄の長男として東京に生まれる。東京農業大学農学部卒業。東京・赤坂にて「柳原料理教室」主宰。
日本料理の指導にあたる一方、自ら野菜を育て、魚を釣り、日本全国の食材を訪ね歩くなど食材そのものへの研究にも力を注いでいる。近著に『柳原一成の和食指南』(NHK出版)、著書に『ちゃんと作れる和食』(マガジンハウス)他。

鍋料理の歴史

はじめに
懐石の献立にみる椀物も、鍋料理がはじまりです。つまり鍋は日本料理のルーツです。私は数十年前、父(故・敏雄)とともに全国各地の郷土料理を食べ歩いて地方色豊かな鍋を味わい、「生きること」と直結した鍋の歴史をかいま見ることができました。
日本には各地に地方色豊かな山のなべ、海のなべがあります。きりたんぽは、米がとれた秋田でマタギの保存携行食糧「たんぽ」を切って鍋にいれたことがはじまりといわれています。また「しょっつる鍋」は魚醤で味をつける鍋ですが、もともとは大きな貝を鍋に仕立てたところから「しょっつる貝焼き(かやき)」と呼ばれていました。この貝焼きは小鍋の先駆的存在といえるでしょう。こうした郷土の鍋は交通網が発達してくる時代より前に育まれてきたものです。さて、歴史をひもとき、鍋について考えてみましょう。

1.「肴瓮(なへ)」から「鍋」へ
なべは「肴瓮(なへ)」の意味だといわれています。肴はさかな、瓮は土焼きの「かめ」のことです。土焼きの器でものを煮たところから、「肴瓮」という言葉が生まれ、「堝」の字が当てられるようになりました。時代が下ると、鉄器の普及によって金偏になり「鍋」という字が生まれたといいます。『和名抄』(日本初の漢和辞典 930年頃)では土篇の「堝」、金篇の「鍋」が書き分けられています。囲炉裏端で、薪を焚きながらつるのついた鍋を煮炊きした時代は長く、鍋そのものが一つの世帯を意味していたと思われます。鍋前で火床、調味、煮具合などを司る主婦はその座を揺るぎないものとし、「鍋座」「鍋代(なべしろ)」「女座」などのことばが生まれました。いまの「鍋奉行」と同じ意味のことばです。

2.「鍋料理」が確立するまで
囲炉裏端の鍋から、座敷に七輪や鍋を持ちだして食べるようになったのは、文化が爛熟した江戸時代後期です。町家では、すすや煙がきらわれたことから台所と食事をする場が切り離され、火床は薪をたく囲炉裏から、木炭を用いるコンロへと変化しました。そして塩や味噌が主体だった調味料に醤油やみりんが加わり、鍋料理はもとより、日本料理そのものが確立していきました。囲炉裏にかける大鍋に対して、食卓に持ちだす鍋料理を「小鍋立て」といいます。「小鍋膳立て」の略で、これがいまにいう「鍋料理」です。
「小鍋立て」が出現した江戸時代は、「江戸の食い倒れ」ということばがあらわすように、庶民が食を楽しめるようになった時代です。それが鍋料理の発展に拍車をかけました。
茶飯屋ではおでんのルーツ、田楽が煮込まれ、今のおでんの形に近くなったのもこの頃です。また、湯どうふ店、あんこう鍋の店など現在も残る鍋料理屋が創業しています。
そして、鍋料理がいっそう盛んになった理由が、牛鍋(すきやき)の流行です。日本においては仏教伝来以来、肉食が禁止されてきましたが、江戸幕府の長い鎖国政策に終止符が打たれて明治時代になると文明開化が叫ばれ、一転、富国強兵のために肉を食べることが奨励されたのです。仮名垣魯文による『安愚楽鍋』(1871年)は当時の牛鍋ブームの情景を描き出しています。庶民にとって一番身近な文明開化の象徴が牛鍋だったのでしょう。
こうして、囲炉裏の鍋からコンロを囲んでの団居(まどい)鍋が家庭料理として定着してくるのです

21世紀への鍋料理

囲炉裏端で鍋を囲んだ食の原始風景は、いまも鍋料理をすると蘇ります。湯気の向こうに家族や親しい友人の顔を見ながら一つ鍋をつつくのは、日本ならではの温かい情景といえるでしょう。
薪の囲炉裏から木炭のコンロ・七輪へと変わった火床は、さらにガス、電気、電磁調理器へと変化しています。核家族化はますます進み、味の好みも洋風化してきています。しかし、準備が簡単で煮えばなを食べられる鍋料理は、今後も家庭から消えることは決してないと思います。また、コンビニエンスストアのおでんの人気や、キムチ鍋ブームなどをみると、われわれが思いもよらない新しい鍋が生まれてくる可能性もあり、楽しみです。最後にわが家ならではの鍋料理をご紹介しましょう。父から私と妻へ、そして子どもたちへ伝えられている柳原家の味です。

「柳原式鍋料理の分類

鍋料理は多種多様で、それぞれの性格を明らかにして分類することはむずかしいことです。しかしその系譜を知らないと、それぞれの本当のおいしさを作りだすことができません。近茶流では植物分類法にならい、汁の特徴によって3つのグループに分類する「柳原式鍋物系統分類図」を考案しました。

水鍋(水煮)
だしを用いず真水で炊くものをいう。水炊きなど具材からでるおいしいだしでいただくこのタイプは各人が薬味や調味料で好みの味にして食べるので、料理初心者でも比較的失敗なく作ることができる。

煮汁鍋(汁物)
味付けしただし汁で作る鍋で、人気の高いおでんや寄せ鍋など多くの鍋料理がこのグループに入る。

すき鍋
鉄鍋を用い、濃い味に作った割り下や味噌だれで煮る鍋物をいう。

柳原式鍋物系統分類図
柳原式鍋物系統分類図

鍋料理をおいしく作るポイント

鍋料理は家庭で作ると「ごった煮」風になってしまうことがあります。上記の表で作りたい鍋の性格を把握し、下記のポイントをおさえて作ると、おいしく作ることができるでしょう。

  • 自分が作りたい鍋の性格を把握し、適した鍋を選ぶ。たっぷりの汁を使う水煮科や煮汁鍋科の鍋料理には、保温力があり、化学変化の少ない土鍋が最適。濃厚な煮汁やすきやきには、底が平らな鉄鍋を。
  • 食材の相性を考え、シンプルを心がける。
  • 鍋は水が大切。昆布や鰹節は日本の水と相性が良い。なお硬水はむかない。
  • 鍋の中を整理し、あくを引きながら煮る。
  • 煮汁鍋は、薄味に。ひと口食べておいしいと感じるだけではなく、最後までおいしくいただける鍋にしたい。

報道用資料 2000年発行「紀文鍋白書」より

なべのい・ろ・は