なべ;冬はやっぱりお鍋でしょう。山海の幸に恵まれた日本では、各地に自慢のお鍋があるのです。

- プロフィール
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竹内冨貴子(たけうち ふきこ)
管理栄養士。1951年東京生まれ。女子栄養大学栄養学部卒業。 大学在学中から、栄養学と食事の架け橋になるような仕事を志し、卒業後は母校の栄養クリニックに勤務。理論だけではなく、実践面の料理指導なども行いたいと、昭和52年カロニック・ダイエットスクール開設。昭和60年には(株)カロニック・ダイエット・スタジオを設立。企業単位での栄養指導や、NHK「きょうの料理」レギュラー、雑誌への執筆など幅広く活躍中。
1日に3回しかない食事だから、できるかぎり毎食美味しく食べたいと思うのは、私ばかりではないでしょう。食事を美味しく楽しむためには、まず健康であることが大前提ですが、他にも食嗜好、食べる相手、食べる環境など色いろな要素が関わってきます。
“美味しく食べる”ではなく、“美味しく楽しむ”とあえて言ったのは、食事は満腹感だけが得られれば良いものではなく、精神的な満足感もとても大切だからです。現在、日本人の健康意識は高まるばかりですが、健康というのは、必要な栄養素をとったからそれで良いというわけではなく、トータルなバランスで考えなければなりません。
そのためには、まず“美味しく楽しむ”ことです。日本にはせっかく四季があり、海に囲まれた素晴らしい環境にあるのですから、もっと自然に逆わらない食生活をし、食の豊かさを楽しむこと。そして、外食では出せない、家族ならではの思いやりの味をプラスすると、自然に心と身体に良い食生活になってくるはずです。
日本人の食生活が危ない
日本人の食生活は、経済成長と共に急激に豊かになりました。(表1)のように、たんぱく質の摂取量は、日本人の所得と比例して多くなり、その結果良質の動物性たんぱく質の摂取量が伸びてきました。この動物性のたんぱく質の摂取量の増加に比例して、日本人の寿命も次第に延び、今では世界に誇れる長寿国となったのです。
同じように、食事の変化を見てみると、脂質の摂取量が1950年と比較すると、3倍上になっています。その結果、総エネルギーに対する脂肪からのエネルギー摂取の割合が、1997年には26.4%になり、理想とされている20〜25%を超えてしまいました。脂質からのエネルギー摂取の割合が高くなってくると、カサの割にエネルギーの高い食事になるので、どうしても太りやすくなってきます。たんぱく質、脂肪の摂取量が増えているのに反して、糖質の摂取量は3分の2位になっています。つまり、この50年位で“主食食い”だった日本人が“おかず食い”になったと言えるでしょう。この“おかず食い”の傾向をそろそろ直さないと、癌などの生活習慣病の発病率がどんどん高くなり、長寿国日本に赤信号が点滅しはじめます。
もう一つの不安材料は、豊かに、便利になりすぎてしまったことです。日本にはない食材を、世界中から見つけては輸入し、国内では高く売れるはしりの時期を、もっと早くすべく努力をし続けました。その結果、珍しい物・季節感・ご馳走といった食生活からの欠かせない刺激が得られなくなってしまいました。そして、食べることに飽きてきた結果、簡便さばかりを追求し家庭での手作りならではの味が失われていく傾向にあるのは、大変残念なことです。
こうした背景は、子供や若い世代に顕著に影響を与え、食べることへの積極性や関心が薄いという結果を招いてしまいました。そして、きちんときめられた時間に食事をとるという食習慣はなくなり、好きな時間に外食、間食をし、ベースとなる家庭での食事では充分な栄養を補えなくなっているのです。
(表1) 日本人の食生活の推移
| |
1950年 |
1960年 |
1970年 |
1980年 |
1990年 |
1997年 |
| エネルギー(Kcal) |
2098 |
2096 |
2210 |
2219 |
2026 |
2042 |
| たんぱく質(g) |
68.0 |
69.7 |
77.6 |
78.7 |
78.7 |
81.5 |
| (動物性) |
17.0 |
24.7 |
34.2 |
39.2 |
41.4 |
44.4 |
| 脂質(g) |
18.0 |
24.7 |
46.5 |
55.6 |
56.9 |
59.9 |
| 糖質(g) |
418 |
399 |
368 |
309 |
287 |
280 |
<日本食品成分表より>
鍋料理に期待すること
このような問題を解決するには、どうしたら良いか。私は、鍋料理に期待しています。まず一つ目の問題である脂肪のとり過ぎについては、日本型の食生活になるべくもどすように心掛けることです。その点、材料の種類が多く、油をほとんど使わない鍋料理は、大半が低カロリーでヘルシーなメニューです。準備も簡単で、各自好きな具を入れることができ、味付けなど変化もつけやすいので、欧米型に慣れた食嗜好も満足させられます。また、素材の様ざまな旨味が絡み合い、独特の美味しさになりますし、寒い時期には体が芯から温まります。栄養的な話については後ほど詳しくお話しますが、食材の種類が多いのでバランスも申し分なくとれます。
二つめの問題点の解決策としては、家族で食卓を囲むことです。家庭の食生活を豊かにする第一条件ですが、その時に、おすすめなのが鍋料理です。温かくて美味しい鍋をつついていると、幸せな気持ちになり同じ鍋をつつくことによって親近感が湧いてくる素敵なお料理です。食べることに関心が薄い子供や、若い世代に関心を持たせるには、まず食事に参加させることが重要です。鍋料理なら、調理の段階から参加することができますし、気になる栄養もバランス良く充分にとれます。しかも、準備や後片付けが簡単なので、忙しい主婦には強い味方となります。
この他にも、高齢化社会、ストレス、核家族化などの社会背景は、様ざまな影響を食生活に与えています。鍋料理は、変化がつけやすく、どんな場面にも対応できるのがもう一つの期待する理由です。大鍋でも小鍋でも、具材や味付け、ちょっとした工夫でバリエーションが広がりますし、組み合わせ次第では栄養面でも様ざまな栄養素が効率良く摂取できるのです。
栄養面から見た鍋料理
鍋料理が食べたくなるのは、“寒い時”“温かい物が食べたい”と答える人が多いのです。寒い時には暖房だけでなく、体の中から温めるのが一番です。糖質は消化吸収が良く、体内ですみやかにエネルギー源として使えるますが、寒い時に何よりも早く温まるのは、熱あつの物を食べることです。たんぱく質、ビタミン類、食物繊維などをバランス良く含んでいる鍋料理ですから、ご飯を食べながらか最後に雑炊かうどんを入れて糖質をとれば、体が芯から温まります。
それに次いで多いのは“家族が揃った時”という答えです。この答えは、家庭内の楽しい食卓の復活には心強いものです。確かに、材料の種類が多い鍋料理は、ある程度の人数がいたほうが材料の無駄がなく、たっぷり作ったほうが美味しくなります。鍋に使う食品数は少ない物で7、8種類。多いものは14、15種類にもなります。厚生省が栄養のバランスをとる目安として、1日30食品とることをすすめていますが、鍋料理をすれば半分近くはとれてしまいます。いくら種類が多くても、刺し身の盛り合わせのように、同じ様な栄養素を含んでいる食品を、何種類も食べても栄養のバランスはよくなりません。鍋料理は旨味を出すために、肉、魚介類、豆腐など、たんぱく質源何種類かを使うことが多いのですが、脂肪の少ない白身の魚や貝類、えび、かになど、低脂肪、高たんぱくの食品ばかりなので、エネルギーのとりすぎをあまり気にしないですみます。
組み合わせ次第で簡単に健康鍋メニューに
また、鍋料理にはかかせないねり製品も、高たんぱく質食品です。ねり製品の特徴は、魚貝類の旨味を簡単に得られることです。栄養的には、たんぱく質を多く含み、いわしなどの青い背の魚を原料にしていれば、DHA、EPAなどの脂肪酸や、カルシウムをとることができます。急いでつくりたい時、一人の時、お年寄りや、子供にもとても便利な食品です。また、若い世代は魚の調理を嫌がる傾向がありますが、そうした方にもねり製品は重宝です。
また、鍋には豆腐やあげなどの大豆製品もよく使うので、動物性、植物性のたんぱく質をバランスよくとることが出来ます。ビタミン類や食物繊維を多く含んでいる野菜類は、白菜や春菊、きのこ類は必需品ですし、旬の野菜をたっぷり入れられます。1日300gの野菜をとることが、一つの目標ですが、鍋料理なら約半量は簡単にとれてしまいます。1日300gのうち少なくとも100g、できれば150gは、青菜や人参などの緑黄色野菜をとって欲しいものです。鍋には青菜や人参はかかせません。野菜類のビタミンは、煮過ぎるとどんどん壊れていきます。ビタミンCの多い青菜類などは、煮過ぎないようにし、無駄な損失をふせぎましょう。こうした様ざまな栄養素は汁に含まれ、また旨味が出て美味しくなりますから、具と一緒に頂きましょう。ただ、たくさん飲んでしまうとちょっと塩分が気になる方もいらっしゃるかと思います。塩分は、過度にとり過ぎないように注意が必要です。最近の国民栄養調査を見ても、段だん塩分の摂取量が多くなってきています。薄味を心がけ、1日10g以下を目標にすることが必要ですが、カリウムを多く含んでいる食品をとると、体外に排泄される時にナトリウムを伴って排泄されるので、減塩の手助けをしてくれます。鍋料理にはかかせない青菜はカリウムが多い食品ですから、コンビネーションは抜群です。カリウムは、干した果物や芋類などにも多く含まれますから、献立に組込み食べるように心がけましょう。
このように、たんぱく質、ビタミン類、カルシウム、食物繊維など、必要な栄養素を一度に摂取することができる鍋料理ですので、素材を選んで組み合わせることによって、症状に合わせたメニューを作ることができます。下の表のように、基本的にはたんぱく質を含むA群、ビタミンやミネラル等を含むB群を組み合わせるようにすれば、失敗もなく誰でも簡単に健康鍋メニューができあがります。
ヘルシー鍋料理のポイント
1. A群、B群の具材を組み合わせる。
2. 野菜は煮すぎないように。
3. 塩分が気になる方は、カリウムを多く含む野菜をたくさんとるようにする。
鍋料理は美容食〜鍋料理健康法の提案
鍋料理が、健康メニューであることをお話してきましたが、では具体的にどんな風に毎日のメニューにとりいれるかをお話したいと思います。具体的には、次の章でご紹介しますが、ここでは、女性の関心が高い美容についてのお話をしたいと思います。
最近は、以前にもましてスリム志向です。健康管理の点では、欠かせないことですが、食べるものも食べないで、ウエイトコントロールをしようという傾向があります。ファーストフードや出来合いのお弁当、お菓子類は、脂肪分が多く量が少なくてもエネルギーが高くなります。その点、鍋料理は体に必要な栄養素はしっかりとれ、低エネルギーで、満腹感、気分的な満足感が得られます。たんぱく質源になる食品の種類を変えたり、野菜の組み合わせを変化させればかなりバリエーションが増えますし、味付けの変化もいくらでも考えられます。最近ふえてきている韓国風の辛い鍋や、エスニック風の鍋は、若い人の志向にぴったり合うと思います。
また、女性にとって忘れてはならないのは美容です。鍋料理は、美容に必要なビタミン、ミネラル、たんぱく質をバランス良くとれる優れたメニューです。
たとえば、緑黄色野菜に多いβカロチンは加熱をして、油と一緒にとるのが効果的です。その点でも鍋料理なら加熱をしますし、脂肪は少ないとはいっても、肉、魚貝類には脂肪があるので、吸収を助けてくれます。また、野菜類からとれるビタミンCは、熱、光、水などに弱い繊細なビタミンですから、水につけておいたり、くたくたになるまで煮過ぎたりしないことが、とりかたのポイントになってきます。
報道用資料 1998年発行「紀文鍋白書」より *インタビュー内の栄養成分の表記等は、各報道用資料発行当時の公表数値に基づきます。
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