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紀文アカデミー

【おでん】教室 生活

おでんで脳をリラックス

講師:篠原菊紀先生(脳科学者、諏訪東京理科大学教授)

われ先にと肉を取り合うすき焼きやしゃぶしゃぶと違って、おでんは一人一人がゆっくりとおでん種を選びながら楽しめる、“ほっと感”の強い和みの料理。おでんが脳にもたらす3つの効能を、脳科学者・篠原菊紀さんがひもときます。

おでんで脳をリラックス

おでんが脳にもたらす3つの効能

おでんが脳にもたらす3つの効能 グラフ

鍋を囲んで親密度アップ!

おでんや鍋料理を囲むと、どこかほっとする温かい雰囲気に包まれるのはなぜでしょう?
今回は脳の働きから見た、おでんや鍋料理のもたらす“和み”“安心感”“満足感”などについてお話したいと思います。

まず、鍋メニューがほかの料理と決定的に違うのは、はじめから終わりまでひとつの鍋を使って食事をする点ですが、食卓のまん中に鍋を置いて共有することで、コミュニケーションを強化する2つのきっかけが得られます。

1つ目は、常に「共同注視」の状態になっているということ。「同じ鍋を見る=目線を共有する」ことは、仲間意識の高まりにつながります。「共同注視」は、ほ乳類ならではの効果的なコミュニケーションの図り方といわれています。

2つ目は、間に鍋を置くことで、間接的に向き合うことになっている点。占いの水晶や筮竹(ぜいちく)を思い浮かべてもらうとわかりやすいのですが、あれは、共同注視の対象になるものを置くことで目線のやり場を提供し、見つめ合わずに済むようにして、相手に安心感を与えるのが目的です。水晶を鍋に置き換えても、同じ効果が期待できます。

よって、鍋を囲むことはリラックスした時間を過ごしながら親密度を深める、有効な手段と言えるでしょう。

ゆっくり食べられるおでんは団らんにぴったり

それでは、ほかの鍋に比べ、より深く感じるおでんの“ほっと感”はどこから来るものなのでしょうか?

カニ鍋を食べているときに無言になったり、すき焼きやしゃぶしゃぶが食卓にのぼると兄弟で肉の取り合いになったりと、そんな経験をしたことのある人は多いのでは。おでんにおいてはそれぞれひいきの種ものが違うので、おのおのがゆっくりと選びながら食事を楽しむことができますよね。また、ほかの鍋に比べて食卓で調理することが少ないのも、落ち着いて食べられる要因でしょう。

ゆっくりと食べられるということは、自然と前頭葉が沈静化する、いわゆるリラックスした状態を生み出します。リラックスした状態になると、気持ちに満足感を与えるセロトニンが分泌されやすくなり、会話も弾みます。つまり、みんなで好みの種ものを選びながら食べられるおでんは、団らんの食卓にぴったりと言えます。

加えて、種ものの色や形に大きな差異がなく、パッと見たときに鍋の中が均一に見えることも、“ほっと感”への引き金になると思います。

また、ちくわやごぼう巻など、おでんの種ものは丸みのあるものが多く、つまみやすい形状です。人間は先天的に、突起物などを見るとつまみたくなってしまう衝動にかられるので、おでんを見るとついつい手を伸ばしたくなってしまうのかも知れませんね。

おでんの匂いが脳を活性化させる?

次に、おでんが脳に作用する効果を語るうえで大きなポイントとなるのは「匂い」です。

関東風や関西風、名古屋風、静岡風など、最近では地方おでんが話題になっているそうですが、コンビニエンスストアおでんの普及からか、おでんはほかの鍋に比べると種ものや味つけのスタンダードがはっきりとしているように思います。みなさんもおでんというと、かつおと昆布のきいた独特のだしの香りを思い出しませんか?

ここでご説明しておきたいのは、嗅覚は五感のなかでもっとも強く印象に残るため、匂いと記憶は密接な関係にあるということ。そして、より子細な記憶を呼び起こすにつれて、記憶をつかさどる部位である前頭前野の働きが活発になります。つまり、匂いがはっきりしているものを思い出すほど、脳は活性化するということです。

おでんはほかの鍋に比べて匂いの記憶が強いので、メニューやのぼり、写真などを見ただけでも、おでんそのものの味や、さらには食事をしたときの光景が思い出しやすく、脳が活性した状態になりやすいと思います。

余談ですが、映画やドラマなどで登場人物たちが肩を並べながらおでんを食べるシーンをしばしば見かけます。あれは、おでんを登場させることで、イメージを膨らませやすくし、物語に入り込ませるのが狙いなのかも知れませんね。

おいしくて、ほっとして、効能いっぱいのおでん

おでんや鍋料理が脳にもたらす効果についてお話してきましたが、おでんの“ほっと感”は理屈だけでは語れない、文化的な側面もあるように感じます。赤ちょうちんや湯気の立つおでんを見ると、どこかノスタルジーを感じるのはその一端であると思いますし、アニメなどのキャラクター作りに使われているのも、親しみ度の高いおでんだからこそでしょう。

また、そうして、テレビの中や飲食店、コンビエンスストア、果てには秋葉原の街の中まで、さまざまな場所でおでんを見ることで、私たちはいっそうおでんが好きになっていくのです。というのは、視線と好みの関係の研究結果から、「見ることは好きになること」といわれているからです。CMや広告などはその効果を狙った手法ですが、毎日何気なく目にすることで、いつの間にか好感を抱く対象になっているわけです。

話は変わりますが、おでんにはほかのメリットも考えられます。脳の老化とともに起こりやすくなる認知症の予防法として、食生活では魚を取ることが有効と言われています。練りものがたっぷりと入ったおでんはまさにぴったりですね。

おでんを談笑しながら囲むことで、リラックスし、家族の絆も深まる。おまけに認知症の予防にもつながるのですから、家庭の定番メニューとして最適です。この冬は家族や友人、会社の仲間など、たくさんの人たちとおでんを囲んで、ほっとするひとときを過ごしてくださいね。

篠原菊紀(しのはら・きくのり)さんプロフィール
篠原 菊紀(しのはら・きくのり)さん

諏訪東京理科大学教授。専門は脳システム論、健康教育学、精神衛生学。学習しているとき、遊んでいるとき、運動しているときなど、日常的な脳活動を調べており、さまざまな分野での共同研究、TV、ラジオ、雑誌、新聞での実験・解説など、幅広く活動している。著書・監修に「未来の記憶のつくり方」(化学同人)、「キレない子どもの育て方」(集英社)、「不老脳」(アスキー新書)など多数。