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紀文アカデミー

【練りもの】教室 地理

アジア練りもの紀行

韓国編

韓国

練りものは日本だけの食べものではありません。アジア各国でも、ヘルシーで栄養バランスのよい食品として愛されています。さっそく、練りものを探す旅に出かけましょう。

アジア練りもの紀行 韓国編

練りもののメニューはおでんやうどんが定番

チョン・テキョンさんプロフィール
チョン・テキョンさん

梨花女子大学校卒業後に来日し、駐日韓国大使館へ勤務。韓国へ帰国後、黄彗性韓国宮中飲食研究院及び伝統餅菓教育院修了。_現在は、日本で韓国料理教室を主宰する傍ら、各所で料理講師を勤めるほか、テレビ、雑誌、新聞、講演等を通じて韓国料理文化の普及に励む。著書に「家庭で楽しむ韓国精進レシピ」(河出書房新社)など。

韓国の屋台では日本食が人気に!?

日本は今、韓流ブームと言われていますが、韓国でも日本の文化に触れる機会はどんどん増えてきていて、とくに、日本食はレストランや屋台など、さまざまな場所で食べることができるようになっています。なかでも、屋台などの手軽に食事ができる店では、おでんやそばなど、ファストフード感覚で食べられる日本食がそのままの名前で並んでいるのを見かけます。
どのメニューも味つけや具材は韓国人の味覚に合わせてアレンジされていて、たとえば、おでん汁は、唐辛子が浮いていたり、コチュジャンで調味していたりと、辛さのある味になっているものもあります。韓国式のおでんは、串に刺さった数種類の練りものが汁の中に並んでいて、1〜2本買い求めて間食としても食べます。

韓国では練りもの自体のバリエーションが少なく、タコやエビ、野菜の具材が入っているものもありますが、すり身だけのプレーンなタイプが多く、揚げたものがほとんどです。形はさまざまで、平たいものや棒状のもののほか、ボール状、丸形などがあります。日本の練りものと大きな違いはありませんが、やや弾力があり、あっさりとした味わいが特徴です。食べごたえがあって旨みが出るので、スープ、チゲ、麺類、炒めものなど、どのような料理にも使われています。

うどんに練りものがスタンダード、おでんうどんは現代風メニュー

うどんとトッポキ、どちらも、韓国では家庭料理として普段から食べられているメニューです。
「おでんうどん」は“おでん”と“うどん”の組み合わせが意外に思えるかもしれませんが、韓国ではうどんの具材に練りものを使うのは普通のこと。わが家でも、子どものころ母に作ってもらううどんには、決まりごとのように練りものがのっていました。
おでんをトッピングしたうどんが登場したのは、おでんが韓国で浸透してからだと思います。昔からあるうどんと練りものの組み合わせをベースに飲食店などが考案したものが、広まっていったのではないでしょうか。今では、うどん専門店でも「おでんうどん」がメニューとして並んでいます。
韓国ではかつおだしを使う習慣があまりなく、うどんだけでなく、おでんやスープ、チゲなどの汁ものは、いりこでだしをとります。

「トッポキ」は具だくさんで栄養バランスのとれた料理

左はトッポキ用、右はスープ用の「トック」左はトッポキ用、右はスープ用の「トック」
一方、「トッポキ」は日本でもよく知られている韓国料理のひとつでしょう。日本では、トッポキというと、トック(韓国の餅)を辛いたれにからめたものを想像するようですが、韓国では、トックを、練りもの、野菜、卵などのたくさんの具材と一緒に調理するのが一般的です。
屋台でよく食べられているコチュジャン味と、宮中料理として供されるしょうゆ味のトッポキがあり、宮中料理のトッポキは、現代では宮中料理の専門店などで食べることができ、コースのなかのたくさんの料理の一品として登場します。屋台のトッポキはおでん同様、間食として食べることが多く、わたしも子どものころは夕飯の後に少しおなかが空くと、買い置きしてあるトックで兄弟たちとトッポキを作って夜食にしていました。
トックはトッポキのほかにスープなどにも使う韓国のもちで、もち米ではなく、うるち米が主原料です。うるち米からできているので、炒めたり煮込んだりしても溶けてしまうことがなく、日本のもちと同じように、主に主食として食べられている食材です。

キムチと好相性の練りもので、気軽に韓国の味を楽しんで

今回改めて韓国と日本の練りものを調理して気づいたのは、練りものとキムチの相性のよさ。汁ものや炒めものを試してみましたが、練りものの甘みとキムチの辛さがマッチして、どの料理で組み合わせてもおいしく仕上がります。
韓国人にとってキムチは毎日の食卓に欠かせないソウルフードで、家庭では専用の冷蔵庫に1年分のキムチを用意して、毎食の箸休めや間食としていただきます。日本人からすると刺激を感じる味だと思いますが、韓国人にとってのキムチは、ほっと落ち着く生地の味なのです。
隣国に住む私たちは、食文化を交換する機会が多く、私自身、韓国料理をもっと日本の人に口にしてほしいと考え、料理教室や雑誌などを通して韓国の食文化とレシピを紹介しています。もともと、日本と韓国は嗜好が近いためか、食材や調味料一つとっても似通ったものが少なくないと思います。

 

焼肉とおでんの関係は?

森枝卓士(もりえだ・たかし)さんプロフィール
森枝 卓士(もりえだ・たかし)さん

写真家、ジャーナリスト。1955年熊本県生まれ。東南アジアを中心に世界中で取材活動を行う。食にまつわる著作が多い。週刊ヤングジャンプの漫画『華麗なる食卓』の監修も務める。著書に『食べているのは生きものだ』(福音館書店)、『食べもの記』(福音館書店)、『カレーライスと日本人』(講談社)、『アジア菜食紀行』(講談社)など多数。

「刺身丼」と日本語で書かれたメニューがありました。ソウルの日食(いるしく)と呼ばれる日本料理屋で。
ちらし寿司とはごはんが違うのか、それとも、ほかになにか特別なところがあるのかという好奇心から、それを注文しました。と、これがお刺身の盛り合わせをそのまま丼のごはんに載せたようなものでした。ただ、一つだけ違っていたのが、上にコチュジャンベースのまっ赤なたれがかかっていたこと。そして、それを、そうあのビビンバのように、よくよくかき混ぜて食べるということ。
彼らの文化の違いに唸りつつも、言われたとおりに混ぜていると、一緒にいた韓国人の友人から、強烈な一言。
「日本が懐かしくなるでしょう?」
その話を日本に留学経験のある友人にしました。すると、別の意味で強烈な一言が。
「やっと、私が日本でどういう気持ちだったか、分かってもらえましたか?」
二十数年前のことですが、日韓の文化の違いという話になると、昨日のことのように思い出します。といっても、何のことかお分かりいただけないか。
日本で韓国式焼き肉というお店の料理は、かなりの部分、日本式にアレンジしたものでした。今では焼き肉のお店もずいぶんと変わったので、そして、日本でも市販のキムチなど本格的な味のものが普通になってきたので、余計にややこしいのですけど、焼き肉ひとつとっても、基本的にはずいぶんと違うものなのです。ロースもカルビもモツも一緒に焼くなんていうもの、ありませんでした。焼き肉が家族で楽しみに行くものに変化する大きな要因となったと思うのですが、あの煙を吸い込むロースターのシステム、あれも日本ではじまったものです。そんな日本の「韓国式焼き肉」の店に連れて行かれて、「懐かしいでしょう?」と言われるという経験を、日本に留学していた友人はさんざんしたのだということなのです。私の刺身丼同様、初めての新奇な味だったりするのに……。
とどのつまり、日本式韓国料理が存在するように、その日食などで食べられる料理は、韓国風日本料理とでもいうべき変容をとげているということなのです。
たとえば、韓国海苔。あのゴマ油の風味をつけた海苔ですが、海苔自体は大昔から食べられていたとはいえ、板海苔に加工する方法は日本から伝わったようです。が、それをあのような韓国スタイルにした、というわけです。海苔巻きも同じです。すし飯ではなく、ふつうのごはんをゴマ油風味の海苔で巻いた、韓国式海苔巻きへの変容。それがまた、日本に受け入れられたりという複雑な関係。
それを、お互い、あまりにも近いために却って誤解していたり、気づかないままでいたりしているというようなことです。韓国人は古い文化であれば、すべからく韓国から日本へ伝えたのだと思いがちであったり、日本人は逆に……というようなこと。
本当は近いところだからこそ、様々な行き来があるために、詳細な分析というか、認識がないとアブナイ。誤解の再生産をしがちなのですけど。

韓国では、屋台でさまざまな種類の練りもののスナックが売られている。
韓国では、屋台でさまざまな種類の練りもののスナックが売られている。
ともあれ。本題の練りもののお話です。
魚の話の前に、朝鮮半島には「ムッ」と呼ばれる食べものがあります。ドングリ、蕎麦、緑豆など挽いて、水にさらして取れた沈殿物を煮て冷ました食べものです。ドングリのムッがトトッリムッという具合で、寒天のような状態になったものです。
豆腐は同じ字でドゥブですけれど(お馴染みになった純豆腐=スンドゥブでお分かりの通り)、昔の文献では「緑豆腐(=ムッ)」というような記述も見られます。まあ、そのような寒天やら豆腐やらのような、固まってはいるけれど、軟らかい状態の食べものという感じでありましょう。あるいは原材料のもとの姿をとどめないもの。
で、そのムッの仲間として、オムッというものがあります。オは魚。魚のムッというわけです。あるいは別名で、李氏朝鮮の時代の文献(『(そうぶんじせつ)』)に、可麻甫串と書かれています。今では、さほど一般的ではないようですが、そのような呼び方もあります。そう、カマボコッと読みます。かまぼこの韓国語音だと容易に想像がつくでしょう。
韓国の食文化研究の先達にして権威であった李盛雨はその著書、『韓国料理文化史』(李盛雨著、鄭大聲・佐々木直子訳 平凡社)の中で、そのカマボコッ=魚のムッは日本から伝えられたものだというようなことを書いています。江戸時代のことですが、朝鮮通信使が接待された記録の中にかまぼこの記述があると。本膳にかまぼこと大根とサヨリの膾、ついでに焼き豆腐と大根、里いも、ごぼうにつみれが入った汁などと記されていて、「ここからかまぼこが通信使を通じて伝えられたことがわかる」と書いています。
日本のかまぼこは魚の身をすりつぶしたものをそのまま、あるいは着色して蒸したものである。ときには昆布などに巻いて蒸すこともある。『謏聞事説』では、日本のかまぼこの製法そのままというわけではないが、手を加えて、名前はそのまま「可麻甫串」と称している、というのです。もともと、魚をすり潰すという調理法が、朝鮮半島には存在していなかったようだとも書いています。魚を薄くスライスしたものに、みじん切りにした様々な具をはさみ、層にして巻いてゆでた料理は見つかったが、すり身にするというものはないと。 そして、それ以降のより深い関係のなかで、魚のすり身は定着し、それを揚げたさつま揚のようなものも一般化していきました。おでんという言葉も定着します。
屋台で売られている、竹串に刺さった韓国風の「おでん」。
屋台で売られている、竹串に刺さった韓国風の「おでん」。
いまでは、「おでん」は言葉の内容もすっかり定着しています。オムッ=練りものもスーパーでたくさん売っていますが、日本ほど、種類は多くない。平べったい、手のひら二つ分くらいの大きさのものが一般的で、長い竹串に、これをぐにゅぐにゅと曲げて刺して、おでんのつゆの中に入ったもの、これを露店で、1〜2本ほおばるのが、冬の風物詩でもあります。
寒い夜、制服姿の学生たちや、勤め帰りのサラリーマンが露店でこの竹串のおでんを食べています。店のおばちゃんが、紙コップにあつあつの汁を注いでくれて、それを飲みながら……。しょうゆをちょっとつける人もいます。
またこの平べったい練りものを細長く切って、しょうゆと砂糖で味つけしたものを海苔巻き(キムパップ)の中にも入れますね。あるいは、家庭でこの練りものを短冊状に切って、玉ねぎやにんじん、青唐辛子などと一緒に炒めたおかずもよく作ります。食堂でも、よく出てきますよと、韓国人と結婚して、あちらに住んでいる友人からのメール。普通に食べられているよねって確認のために送った私のメールへの返信。
そうそう。ちょうど、たこ焼きなどつまむような感覚で食べていたなあと思い出しました。あるいは屋台の酒の肴。懐かしいと思いつつ、少しだけ新鮮な味わい。
歴史認識等々の問題で、ややこしいことも多い両国ですけれど、こと食に関しては、意外なほど素直に受け入れ合っているような印象も持ちます。意識しないままに。だからこそ、お隣さんの食は面白くも興味深いのかもしれません。