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【練りもの】教室 地理

アジア練りもの紀行

マレーシア編

マレーシア

練りものは日本だけの食べものではありません。アジア各国でも、ヘルシーで栄養バランスのよい食品として愛されています。さっそく、練りものを探す旅に出かけましょう。

アジア練りもの紀行 マレーシア編

海に囲まれたマレーシア、練りものは毎日の食卓に

福澤 笙子(ふくざわ・しょうこ)さんプロフィール
福澤 笙子(ふくざわ・しょうこ)さん

マレーシアで出会った豊かな食に魅せられて、現地の味を日本で再現するため、1994年、西池袋に「マレーチャン」をオープン。本格的なマレーシア料理が食べられる店として、在日マレーシア人からの人気も高い。

マレーシアの練りものは種類もメニューも豊富

多様な文化が重なり合っているマレーシアでは、マレー、中華、インド、独特のニョニャ料理など、さまざまな味を楽しむことができます。それらを初めて食べたときは、日本にはない味わいに衝撃を受けました。その味に魅せられて以来、料理の勉強や食材を求めて年に3〜4回マレーシアへ渡るようになり、20年ほど前にレストラン「マレーチャン」をオープンしました。
熱帯ならではの野菜やフルーツをはじめ、マレーシアはとにかく食材が豊か。海に囲まれ大きな河川が多いため、魚もよくとれて種類が豊富です。市場に行くとアジやサバのような見慣れた魚から熱帯魚のようなカラフルなものまで、さまざまな種類が並んでいて、食卓に欠かせない食材となっています。

また、魚食が豊かなマレーシアでは練りものもたくさん食べられています。主な食べ方には、市販の練りものを買ってきて料理する方法と、すり身から練りものを作る方法があります。今回ご紹介する「ロロ」は市販の練りもの・魚介類・肉・野菜をしゃぶしゃぶのように食す料理、「オタオタ」は魚をすり身にして作る料理です。
市販の練りものは、白身魚や青魚、エビ、いかを使ったもの、ボール型、棒状、平たいものなど、いろいろな種類や形状があります。市場にある専門店では必要な量だけ買い求めることができますし、スーパーでは袋詰めになったものが売られています。マレーシアではどんな料理にもよく使われていて、炒めもののほか、カレー、ココナッツミルクで作るシチューなど、煮込み料理に使うことも多いようです。

「オタオタ」バナナの皮に包まれたスパイシーな練りものメニュー

オタオタ
オタオタ
マレーシアでは、魚をすり身にして作る料理の種類が豊富です。薄く平たくのばし、乾燥させて揚げ、スナック感覚で食べるもの、ソーセージのような棒状にして揚げたものや蒸したものなど、さまざまですが、なかでもポピュラーなのは、今回ご紹介する「オタオタ」でしょう。 「オタオタ」は屋台でよく見かける人気の料理で、家庭で作ることもあります。写真は、さばのすり身にターメリック、コリアンダー、レモングラスなどのスパイスを加えた、クアラルンプールで食べられているもの。地域や家庭によって材料の魚や味つけなどが違っているので、クアラルンプール以外の場所では、ココナッツシュガーや黒砂糖を加えた甘みのあるものや鮮やかな紅色をしているものを食べたこともあります。屋台ではめん類のトッピングとして注文する人もいます。

「ロロ」屋台で食べるマレーシア風、串おでん!?

クアラルンプールに出ている、移動式のロロの屋台
クアラルンプールに出ている、移動式のロロの屋台
私がよく滞在するクアラルンプールでは3食を屋台で済ませることがめずらしくありません。夕飯も、屋台が集まるナイトマーケットに家族で出かけ、その場で食事をしたり、テイクアウトをして家で食べたりします。
「ロロ」はそのような屋台食のひとつで、串に刺してあるバラエティー豊かな具材の中から、食べたい串を選び、お湯に入れて1、2分ゆで、好みのソースをかけていただきます。串は値段ごとに色分けしてあり、具材は店によっていろいろなものがありますが、練りものは何種類か並んでいるのが通例です。
マレーシアの家庭では10種類程度のソースが常備されていることが一般的ですから、材料をそろえるだけで準備できる「ロロ」は、人が集まるときの簡単メニューとして家庭で作られることもあるようです。
食べ方や具材の種類、ソースの味などはお好みでアレンジしてもよいでしょう。家族や仲間で気軽にマレーシア料理を楽しんでみてくださいね。

マレーシア料理はスパイスがおいしさの要、練りものとの相性も抜群

マレーシア料理はスパイスがおいしさの要
マレーシア料理の魅力は、なんといっても、スパイスやハーブが織りなす豊かな風味です。本場のマレーシア料理のおいしさを味わっていただきたいので、私の店では、マレーシアやインドネシア出身の料理人が、現地から仕入れた調味料を使って調理しています。「ロロ」を作ってみて気がついたことは、日本の練りものとマレーシアのソースとの相性のよさ。練りものと野菜の炒めものなどに加えてもおいしいと思いますよ。 以前は日本で手に入りにくいものもありましたが、近ごろでは、アジアの調味料を扱う輸入食材店やインターネット通販も増えていますし、当店のように店頭で調味料を販売している飲食店もあるので、ぜひ、材料をそろえて、ご家庭でマレーシアの味にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

“脳みそ”と呼ばれるマレーシアの練りもの「オタオタ」

森枝卓士(もりえだ・たかし)さんプロフィール
森枝 卓士(もりえだ・たかし)さん

写真家、ジャーナリスト。1955年熊本県生まれ。東南アジアを中心に世界中で取材活動を行う。食にまつわる著作が多い。週刊ヤングジャンプの漫画『華麗なる食卓』の監修も務める。著書に『食べているのは生きものだ』(福音館書店)、『食べもの記』(福音館書店)、『カレーライスと日本人』(講談社)、『アジア菜食紀行』(講談社)など多数。

多民族、多宗教の国の食文化はややこしい。今となっては常識だと言われるかもしれませんが、それを実感したのは今から30年ほど前のことなのです。その経験が「食の文化」というものへの関心を、抱かせたのかもしれないという忘れられない思い出。
マレーシアの首都、クアラルンプール近郊の日系企業の工場を訪ねたときのことです。何かの雑誌の取材でしたが、ともあれ、取材を終えた頃にはちょうどお昼時。これも、また興味深いはずですと、社員食堂での昼食に誘われました。
名前を言えば誰でも知っている大企業の、巨大な工場です。社員食堂も広大なものでした。ビュッフェスタイルで、お料理が何十と並んでいます。お好きなものをどうぞと。中華もマレー料理も、それから、インド料理も並んでいます。
さて、何を食べよう。と眺めながら考えていたところで、あることに気づきました。お肉は鶏だけ。それと魚介だけだったのです。
もとより、イスラム教徒であるマレー系と、ヒンドゥー教徒のインド系、そして儒教や仏教などの中国系等々の多民族の国であることは周知でしょう。それにしても、屋台街や食堂街(フードコート、ホッカーセンター)では豚肉も牛肉も並んでいたはず。
いぶかしがっていると、同じキッチンで聖なる牛、あるいは汚れた豚など調理されることも許容されないのだという話。共通項として食べられるものは鶏と(この場にはなかったですが)羊、それに魚介だけということだったのです。 マレーシアでの経験ですが、多数派がマレー系ではなく、中国系になるとはいえ、民族の構成などでは同じシンガポールでも、あるいはインド系はほとんどいないにしろ、イスラム教徒と華僑中国系という混合では、インドネシアでも基本的な事情は同じです。

スリランカ料理でだしをとるのに使われる「モルジブフィッシュ」。見た目は鰹節にそっくり 撮影/森枝卓士
スリランカ料理でだしをとるのに使われる「モルジブフィッシュ」。見た目は鰹節にそっくり
撮影/森枝卓士
共通項として食べられるものは鶏と魚介、それに、(ここでは…)羊だけだったのです。さらに詳しく述べると、インド系では淡水魚には忌避があったりしますし、鶏や羊は問題ないとはいえ、イスラムの約束事に従って屠畜されたものしか許されないとか、まあ、色々とありますが、とにかく、海の魚介が豊富な地域ですし、それがもっともタブーから遠いということです。

というわけで、本稿の主題、魚介のすり身、練りものです。改めて、その多様な民族の食を思い返していて、温度差のようなものがあることに気づきました。練りもの食品が豊かな民族と、そうでない民族がいるということです。
少ない方から言うと、インド系でしょう。マレーシア、シンガポールに多いのは、南インドのタミール系なのですけど、海が広がる地域の出身ですから、当然のようにシーフードの料理はいっぱいあります。
大きな魚の頭部がまるごと入った、「フィッシュヘッドカレー」 撮影/森枝卓士
大きな魚の頭部がまるごと入った、「フィッシュヘッドカレー」
撮影/森枝卓士
フィッシュヘッドカレーのように、この地域に移り住んだところで作り上げられた食の文化さえあります。やはり、タミール系の人々が多く住む、スリランカなど、かつお節にそっくりなもの、モルジブフィッシュがだしに使われるほど、海産物にはなじみが深いのですが、練りものといえば、微妙です。南部の海辺の地域では、英語でいうところのフィッシュケーキとか、クロケット(コロッケ)の類があったような記憶がありますが、全国区ではないようです。 動物の肉でしたら、北インドの方ですけど、シークカバブと呼ばれるミンチの肉をスパイスと一緒にこねて串に刺し、タンドールで焼いたものなどあれこれ思い浮かびますが、魚の印象は薄いのです。
何故、少ないのかという疑問の答えは難しいですけれど、どうしても煮込む料理が多いですから、肉はともかく、さほど堅くて食べにくいということがない魚介の場合は、そのような工夫が発達しなかったということではないかと想像できる程度。
インド系とは反対に、そのバリエーションが豊富で楽しいのが、やはり、中国系です。たとえば、シンガポールやマレーシアのフードコート、ホッカーセンターでも定番のひとつがヨンタオフー。こちらのおでんのようなものという紹介をされることが多いようですが、まさに。魚介の練りものを揚げたもの、ゆでたもの等々と豆腐や野菜、ワンタンのような具がおでんのように煮込んであるものです。豆腐に詰めもの(それも魚介の練りものが多い)をしたものが必ずといっていいほどあり、そこから、この名前も出ていると思われます。それとご飯を食べたり、スープ麺を一緒に食べたり。
スープ麺といえば、ラーメンのようなというか、湯麺の類でも、具に魚介の練りものというのは定番です。もちろん、肉が具というものもいっぱいありますけれど、同じように練りものも麺類の具であるということなのです。
このあたり、つまり、東南アジアの島嶼部の中国系といえば、福建系や(広東省の一部である)潮州系あたりが多数派で、海南島や客家(ハッカ)も少なくありません。つまり、海に近い一帯の出身者が多いということです。そのおおもとの食文化に魚介が多く用いられていたということで、さらに、この海の魚介が豊富な地域でありますから、その文化が花開いているということなのでしょう。
そういえば、練りものとは直接は関係ありませんけれど、歴史的に生魚は食べないと思われている中国系の人々の中にも例外があります。その名も魚生(ユーシェン)。生魚の切り身に各種の野菜を合わせ、油や柑橘の汁を混ぜて食べるものが食べられます。屋台で食べた覚えもありますけど、とくに春節、つまり旧正月のごちそうといえば、これを家族一緒に食べるのがお約束というようなものです。それだけ、魚介に親しみ深い食文化の地であるといえると思われます。だからこそ、練りものの文化も豊富なのでしょう。

ところで、マレー系やインドネシアの人々にとっての練りものですが、先のヨンタオフーのようなものは共有しているといえます。豚肉のようなイスラムの食のタブーに引っかかるものは使われていないものは、彼らにとっても抵抗のない一般的な食べものだということです。それに加えて、もっともローカルに一般的なものがオタオタでしょうか。
魚のすり身をバナナの葉っぱやパンダンリーフ(タコヤシの葉。海南鶏飯〔ハイナンチーファン〕=シンガポール風チキンライスの風味つけに用いられる)で包み、その上で焼いたものです。包む葉の香りやら、ココナッツミルクの風味などもあり、いかにもこの地域の味わいが楽しい。スパイスのきいたものやら淡泊なものやら多様です。
マラッカを中心に、ニョニャ、あるいはババニョニャと呼ばれる中国系とマレー系の混じり合った文化があります。基本的には宗教の違いもあり、現在でも通婚は少ないですが、その昔、古都マラッカにやってきた華僑は男が多く、その地の女性と結婚して作り上げられたのがニョニャと呼ばれる人たちであり、その文化です。そのあたりの有り様から、中国からの伝来という可能性も考えられますが、資料があまりなく、はっきりしません。それぞれの土地で独自に発展した可能性もあり得ます。石などの臼で食材を摺り潰して料理する調理法が(日本まで含めて)共通しますから。
書いていて、思い出しました。やはり、30年ほど前。クアラルンプール郊外の住宅地。普通の住宅をそのまま利用した、看板もない予約だけの中華のレストラン。登場したのはカマスのような焼き魚、そのまま食べられるという。それもそのはず、中はすり身。エラか口から魚の中身を全部抜き、その上ですり身にして詰めたものでした。さて、あの不思議は今もあるものか。