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江戸文化と和の暮らし−日本人とおせち−

■はじめに
現代の暮らしの中にも、和の暮らしとして、江戸の文化がさまざまなところに息づいています。しかし、本来の意味や価値が忘れられている生活習慣や行事も少なくないようです。江戸の庶民が親しんでいた和の暮らしと、私たちの現代の暮らしについて振り返り、見直してみたいと思います。

畳の文化−シンプルライフ−

トロイの遺跡を発掘したことで有名なドイツ人のシュリーマンは、トロイの遺跡発掘の数年前に、世界周遊の途次、中国から日本へとやってきました。当時、日本はすでに開国していました。彼はその著『シュリーマン旅行記』に日本の住宅について、次のように記しています。


「日本の住宅はおしなべて、清潔さのお手本になるだろう。 床は一般に道路から30cmほど上がったところにあって、長さ2m、幅1mの美しい竹製のござ(畳)で覆われている。ござは、長椅子やソファ、テーブル、ベッド、マットレス―おそらく日本人がその存在も使用法も知らないものの代わりに使われている。」(『シュリーマン旅行記』)


西洋では、居間にはソファと低いテーブル、食堂には大きなテーブルと椅子、応接間には応接セット、寝室にはベットというように、暮らしの中にたくさんの家財道具があります。日本の家屋は部屋数は少なく、畳しかありませんが、たった一部屋でも座布団を出せば応接間になり、布団を敷けば寝室になります。食事は銘々膳で、テーブルはいりません。シュリーマンは、畳ぐらい清潔で美しく機能的なものはないと驚いているのです。西洋の暮らしと和の暮らしを比較した上での結論です。


ところが、現代の日本の家屋から畳がなくなってきています。昔はどこの家にも必ず畳の部屋がありましたが、いまは畳の部屋がひとつもない家が増えてきているのです。 私の勤務している江戸東京博物館の体験ゾーンには、昭和前期の住宅が実物大で展示しています。玄関があり、廊下があり、畳の部屋があり、台所もあり、自由に入ってもらっています。部屋にはちゃぶ台とか、衣桁とか、古いラジオとかが置いてあります。


この部屋にいつの間にか近所の学校の子どもたちがやってきて、おはじきやお手玉をして遊んでいるのです。丸いちゃぶ台を囲んで、顔を寄せあって、ひざをつき合せて座っています。「ひざつき合わせる」という、人と人とが密接につながっていくちょうどよい距離感、これがいいのだと思います。机を挟んででは人と人とが離れてしまいますが、畳は目線が低く、人を近づけます。子どもたちに、なぜ、ここで遊んでいるのかと聞くと「うちに畳がないから」というのです。


いろいろな事情で、日本の家屋から畳がなくなってきています。いまに畳の生活は博物館でしか体験できないものになってしまうかもしれません。畳文化のシンプルな和の暮らしを大切にしなくてはいけないと感じています。


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